著者がバス会社の総合職として、バスの運転手を管理する運行管理者だった在職中に起こった仕事上のトラブルなど、様々なエピソードを綴ったエッセイ本。
【感想】
大学の文学部地理学科での研究では、バス会社を外側(表側)からしか見ることができなかったのに対し、社員となったことによって内側(裏側)からも見ることができ、これまで疑問に思っていたことについて「あれはこういうことだったのか!」とバス業界の内情を理解することができたそうです。
私自身も日常的に利用している路線バスですが、その内情は意外と知らないことばかりであったことを痛感しました。
路線バスの運行管理者として、バス運転手やバス車両のスケジュール管理のみならず、振替輸送や事故、車両故障、渋滞による遅延、運転手の欠勤などの対応方法や遣り繰りの苦労がよく分かりました。
運転業務内容や勤務シフトに対する運転手一人一人の考え方や価値観、捉え方の違い、業務を円滑に進めていくための人間関係の構築、日頃からのコミュニケーションの大切さがひしひしと感じられました。
後半は運転手の方々への労働の実情インタビューや、著者が日本初・定常運行の自動運転バスに乗ってみた感想、「キングオブ深夜バス」として知られる「はかた号」やアメリカのバス乗車記、東京から大阪まで路線バスを乗り継ぐ旅をしたリポート、テレ東「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」番組チーフプロデューサーとの対談も盛り込まれていて楽しく読み進めることができました。
「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」での出演者とスタッフとのエピソードや裏話が明かされており、相本久美子さんの誠実なお人柄に共感しました!
著者は仕事を続けていく中で、お客様や一般ドライバーなどからの数々の苦情やトラブル、暴言など、いつ何時、どんなクレームが入るか分からないことから仕事に対して後ろ向きとなってしまい、職場に足が向かなくなってしまったそうです。
カスタマーハラスメント(カスハラ)はパワハラとは違い、社外の人によるものなので、根絶は簡単にはいかないと思いますが、未然防止に向けた対応マニュアルの整備や専門窓口の設置、職員への研修、弁護士等との連携など、実現可能なことから取り組んでいく必要性をあらためて感じました。
同時に、消費者側(顧客)も理不尽で著しい迷惑行為をしないように、意識改革を促すような法整備の必要性も感じました。
路線バスに関する最近の報道からは、運転手の人手不足や利用者減少で減便、地方ではローカル路線の廃止など、厳しい状況に置かれていることを窺い知ることができます。
しかし、バスをはじめとした公共交通機関に関わる人たちは、可能な限り維持していこうとあらゆる努力と取組を行っています。
2023年4月1日から改正道路交通法が施行され、特定の条件下で運転を完全に自動化する「レベル4」の自動車の公道走行を認められました。
バスなどの活用を想定した制度で、運転手がいない自動運転バスの走行も可能になりました。
大切な公共交通機関である鉄道でもローカル線が次々に廃止されていく中、バスの存在はより一層存在意義が高まってくるものと思います。
私たちの生活に欠くことのできない路線バスを運行していくことの苦労や努力が伝わってくる一冊でした。
筆者が鉄道会社に勤めたときのことをまとめた「怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 」も読んでみたいと思いました。
【余話】
東京駅から大阪駅まで路線バスを乗り継ぐ旅をしたリポートが書かれていましたが、1日1本しかないバス路線や、土日運休の路線、県境区間はバスがつながらないという「路線バスあるある」など、困難な実情がよく分かりました。
1週間かけて、途中つながらない箇所は徒歩による移動で、乗ったバスの本数、費やした距離と費用と時間は、次のとおりだったそうです。
バス乗車:61本、793.Km、29,957円、41時間48分
徒歩:48.1Km、11時間32分