本書は、作家の桐野夏生さんが、中ピ連の榎美沙子さんをモデルにした女性、塙玲衣子の足取りを追うという展開のドキュメンタリー形式で書かれたフィクションの作品。
【あらすじと感想】
一般家庭にもカラーテレビ📺が普及した昭和47年当時、色鮮やかなピンクのヘルメットをかぶって、大声で叫んでいたセンセーショナルなシーンを思い出しました。
当時小学生だった私は、住んでいた杉並区が東京ゴミ戦争をはじめ、中央線杉並三駅問題、高井戸IC下り線入口問題、ウーマンリブ運動、意識の高いPTAや地域住民などによる様々な活動やデモが盛んな地域でしたので、「中ピ連」は中学校PTA連合の活動家の人たちのことだと、ずっと思っていました。
人工妊娠中絶の制限への反対と避妊用ピルの解禁を訴えた「中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合(中ピ連)」のことだと知ったのは、ずっとずっと後のことでした。
低用量ピル(経口避妊薬)の国内解禁から25年が経ちましたが、今から52年前、ピル解禁と中絶の自由を訴えた榎美沙子さんは、その後消息がわからなくなり、「あの人は今どこに」となってしまいました。
女性が自らの意志で自らの身体を守ることを提起した、時代の先駆者であった榎さんは、なぜ表舞台からこつぜんと姿を消してしまったのか。
主人公の40歳のノンフィクションライターの女性が塙玲衣子に関係した人物14人を訪ね、取材(インタビュー)を通してその真相に迫る内容でした。
第三章の「5 一週間後の『泉孝子』の話」、「6 塙玲衣子の残した『日記的ノート』」、「7 私はなぜ塙玲衣子を書こうと思ったのか?」の節に、塙玲衣子の人となりや辿った生き方が描かれており、マスコミの前でピンクのヘルメットをかぶり、派手なパフォーマンスをして女性の権利を訴え一躍世間の脚光を浴びていた姿は、彼女の本来の姿ではないことが伝わってきました。
塙玲衣子というオパールは、マスコミに踊らされ、そして干されて乾燥し、割れてしまったのでしょうか? それとも、大企業から冷や水を浴びせられ、仲間からも水を差されて信念を通せなくなり、輝きを失ってしまったのでしょうか?
【余話】
実在の榎美沙子さんは芸名で、本名は木内(旧姓は片山)公子さん。夫の木内夏生さんの「木」と「夏」を組み合わせて「榎」と名乗ったそうです。
本書に登場する塙玲衣子も同様で、本名は石井数子で、夫の土田高之の「土」と「高」を組み合わせて「塙」になったと説明されてました。
本書のタイトルの「オパールの炎」のオパールは10月の誕生石で、宝石の中で唯一、水分が入っており、乾燥すると濁ったり割れたりする。しかも、水に濡らすと塩素と反応して輝かなくなってしまうという、とても繊細で不思議な石。
石の中のちらちらと燃えている火が、オパールの炎で、遊色効果によるものだそうです。
最終ページの「謝辞」に、本書の執筆に当たって榎美沙子さんの元夫である医師の木内夏生さんに取材をされたことが記されていました。