天国へ届け  2022年に亡くなられた漫画家 『遊☆戯☆王』高橋和希さん死去  | 20世紀漫画少年記

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 2022年7月6日、沖縄・名護市の沖合にてカードバトルを題材にし世界的人気を誇った漫画『遊☆戯☆王』の作者 高橋和希(本名:高橋一雅)さんが遺体で発見された。享年60歳だった。

 

 高橋さんは1964年10月4日生まれ 東京都出身

 

 『遊☆戯☆王』のメガヒットにより生粋のジャンプ作家と思われている高橋さんだったがデビューは小学館「少年サンデー」だった。1981年『ING!ラブボール』が第8回小学館新人コミック大賞に雅はじめ名義で入賞し、「少年サンデー」第31号に掲載された。ゲーム会社で商業デザインの仕事をしていた20歳頃から本格的に漫画家を目指し、アシスタントをしながら持ち込みを始めた。1986年に講談社「少年マガジン」にて当時放映されていたアニメ「剛Q超児イッキマン」(日本テレビ)のコミカライズ版で高橋かずお名義で連載デビューした。

 1990年に集英社「週刊少年ジャンプ増刊サマースペシャル」で高橋一雅名義で読みきり作品「闘輝王の鷹」を発表。 同年、「少年ジャンプ増刊ウィンタースペシャル」で読みきり作品「バトルマインド」を発表。

 翌1991年『週刊少年ジャンプ』にて高橋一雅名義で、プロレス漫画『天燃色男児BURAY』の連載を開始する。

 これは残念ながら短期で連載終了となった。

 

 そして1996年、ペンネームを高橋和希に変え『遊☆戯☆王』の連載を開始する。

 

 これが伝説の始まりだった。

 

 当初は気弱でいじめられっ子だった高校生、武藤遊戯が古代エジプトより伝わる闇のアイテム「千年パズル」を解いたことを発端として、心の中に別人格であるもう1人の遊戯(闇遊戯)を宿し、この人格が正義の番人となって、悪人に「闇のゲーム」を執行し、そのゲームに負ける、またはルールを破った者に恐ろしい「罰ゲーム」を与えていくという藤子不二雄A先生の「魔太郎がくる!」のような路線だった。途中で人気が低迷するも読者に好評だった架空のカードゲーム「マジック&ウィザーズ」を再登場させたことで、人気を回復。以降は、「マジック&ウィザーズ」を中心とした話にシフトしていくことになる。またSF的要素も取り入れるようになっていった。

 

 1998年にテレビ朝日系でアニメ化(2000年にテレビ東京系で2度目のアニメ化)されると更に人気が爆発し、キャラクターグッズの一環で1998年にバンダイより『遊☆戯☆王カードダス』として、1999年にはコナミより『遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム デュエルモンスターズ』(遊戯王OCG)として二度実商品化された。特にコナミから発売された遊戯王OCGは単なるキャラクターグッズの枠を超えた人気となり、2011年には累計販売枚数251億7000万枚を突破。「世界一販売枚数の多いトレーディングカードゲームとしてギネス認定されている。2013年3月には「参加人数が最も多いトレーディングカードゲームトーナメント」としてもギネス認定された。テレビゲームをはじめとした関連商品も数多く発売され、その後はトレーディングカードゲームを題材した類似作品が国内外問わず多数発表された。2019年時点でのメディアミックス(全世界総収益)は198億ドル(2兆7000億円以上)を記録する超メガヒットコンテンツとなった。

 

 このメガヒットの特筆すべきは「トレーディングカードゲーム」というジャンルを日本に定着させたことにつきるだろう。

 

 「レアカード」と言われる希少価値のあるカードが高額で取引されるようになったのも、日本中にトレーディングカード専門店ができたのも全て『遊☆戯☆王』から始まったといっても過言ではない。私はリアルタイムで社会現象とまで呼ばれるようになっていく過程を見てきたが、その人気は漫画・アニメに留まらず、新たな文化として日本全国に広まっていった。テレビのニュース番組でレアカードが数万円でカードショップで売られていると報道されるようになったのもこの頃だった。そしてその報道により更に人気に拍車がかかり、レアカードは更に高額で取引されるようになった。インターネットの普及によりネットオークションが一般的になると現在で言う転売ヤーにより更にその価格は高騰していった。

 

 ゲームショップやトレーディングカード専門店だけでなく学校や公園などで子どもたちがカードバトルするようになり、「ポケットモンスター」や「ドラゴンクエスト」などすでにTVゲームとしてメガヒットしていたゲームがトレーディングカードゲームになるという逆転現象まで起きた。

 

 古くは駄菓子屋のメンコや「仮面ライダースナック」の「仮面ライダーカード」や「ビックリマンチョコシール」やテレホンカード収集など、カード収集というが日本人の国民性に合っていたのも大きいだろう。

 

 2004年に『遊☆戯☆王』の連載が終了。その後は『遊☆戯☆王』のスピンオフ作品『遊☆戯☆王R』(作画・伊藤彰)『遊☆戯☆王GX』(作画・影山なおゆき)などの漫画作品の原案・監修を務め、アニメやゲームのシリーズには原案やデザイン提供などを行った。

 

 高橋和希氏は2013年『週刊少年ジャンプ』第49号にて約9年ぶりの読み切り作品『DRUMP』を発表。2018年『週刊少年ジャンプ』第46号~第52号にて短期集中連載『THE COMIQ』を発表。2019年には『少年ジャンプ+』編集部とマーベル・コミックのコラボ企画の一環として『アイアンマン』と『スパイダーマン』を題材とする読み切り作品『SECRET REVERSE』を発表。

 

 『遊☆戯☆王』連載終了後は連載作品を描くことはなかった。

 

 2022年7月6日午前、沖縄県・名護市の沖合300m地点でシュノーケリングの器具を装着した男性が漂流している状態で見つかり、消防によりその場で死亡が確認された。死後1〜2日経過していたとみられ、第11管区海上保安部・名護海上保安署が身元を調べた結果、翌7日に遺体が高橋和希氏であることが確認された。

 高橋和希氏は単独で沖縄を訪れており、地元のレンタカー会社が高橋氏と連絡が取れないとして届け出ていた。遺体の発見現場から12キロほど離れた恩納村の農道で借りていたレンタカーがあり、運転免許証が残されていた。名護海上保安署は7月11日、司法解剖の結果、死亡日時を7月4日の午後と推定し、死因は溺死だったと発表した。腹部と下半身には鮫などの海洋生物に付けられたとみられる損傷があった[が死後に付いた噛み傷とみられている。

 

 訃報を受け、ネット上では漫画・アニメ関係者やファンから別れを惜しむ声が世界中で続々と出ていた。テレビアニメ『遊☆戯☆王ARC-V』主人公・榊遊矢役を務めた声優・小野賢章は自身のツイッターで「高橋先生、遊戯王ARC-Vの制作発表の時に、一度お会いしたのですがとても穏やかで優しい印象の方でした。ご冥福をお祈りいたします」と追悼した。

 

 『はじめの一歩』作者の森川ジョージ氏も「『高橋和希』は自分にとっては『高橋かずお』なんだ。デビューが近く、担当も同じだったからかなり仲良くさせてもらっていた。麻雀仲間でもあった。新人時代から画力は飛び抜けていて、でも少し求道精神に欠けていた。売れることにそれほど執着はなかったよ」と回顧。「何年か前かの『また麻雀やろうな』という去り際の言葉が最後に聞いたセリフになってしまった。漫画についての会話はほぼしたことなかったな。ラスベガスの思い出や海の中の景色のことを楽しそうに話していた。最後も麻雀か。あなたが遊戯王ですね」「まだ信じられなくてご冥福を祈る気分になれないのだけど、少しづつ受け入れようと思う。他人行儀の仲じゃないからとりあえずの挨拶をするよ。じゃあね高橋さん」と惜しんだ。

 『遊☆戯☆王』の長年のファンからも「ウソだろ…」「高橋先生の作品、いつも斬新なゲームを発表していて、いつも楽しませていただきました!」「高橋先生には感謝してもしきれない大恩があります。それにしても早すぎる…残念でなりません…」などと反応。

 また『遊☆戯☆王』は世界的なメガヒットでありカードゲームが世界展開されていたことから、「絶対的なレジェンドを失った」とその死を惜しむ声や『遊☆戯☆王』という作品を世に送り出したことへの感謝の言葉が世界各地から続々とあがった。中国のSNS・ウェイボーではトレンド1位にもなった。

 

 また『週刊少年ジャンプ』2022年第34号は巻末の目次頁に訃報の記事を掲載。巻末目次の作者コメント欄は連載作家全員が高橋和希氏への追悼のコメントだった。

 

 

 それも無理からぬことで連載開始時にほぼ同期だった『ONE PIECE』の尾田栄一郎氏以外、現在『少年ジャンプ』で連載している作家は全員、子どもの頃『遊☆戯☆王』を読んで『遊☆戯☆王カード』を集めまくってカードバトルを楽しんだ世代で『遊☆戯☆王』世代だった。

 

 そして没後3ヶ月を過ぎた10月、高橋氏が人命救助の際に落命していたことが明らかになった。7月4日に人気のダイビングスポットである恩納村・アポガマ付近で、少女を含む親子3人が離岸流により沖へ流され、居合わせたアメリカ陸軍証左とアメリカ人男性、さらに高橋氏が海に向かい、3人の救助に成功。しかし高橋氏はその際に波にのまれて行方不明となり、死亡したとみられる。星条旗新聞が10月11日に陸軍少佐の証言などを報道し、海上保安庁も14日に当時の経過を発表。海保は事実を把握していたが、少女の心情面を配慮し事実の公表を避けたとしている。陸軍少佐は「他の人を助けようとして命を落とした彼はヒーローだ」と話した。

 

 世界的なメガヒット作品を生み出し、「トレーディングカードゲーム」という一大ジャンルを日本に定着させた漫画界の英雄は最後の最後まで英雄だった。

 

『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎氏は『週刊少年ジャンプ』2022年第34号の巻末目次の作者コメント欄にて「『遊☆戯☆王』は漫画界の革命!! ファンはずっと高橋先生の生んだ世界で遊ぶ。合掌!」と追悼の言葉を綴った。

 

 「トレーディングカードゲーム」というジャンルが存在しつづける限り、『遊☆戯☆王』ワールドはこれからも語り継がれ読み告がれていくことであろう。

 

 年を越えてしまいましたが、あらためてご冥福をお祈りいたします。