漫画の改変・「バードマン現象」とは? | 20世紀漫画少年記

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 昔から漫画には人権、宗教、有害コミック、著作権、盗用疑惑など、クレームがきたり自主規制など様々な事情により、回収もしくは単行本未収録となったり、あるいは存在そのものが記録から抹消されたりと「消された作品」が多数存在する。

 

 同様に様々な事情によりセリフの改変、差し替えを余儀なくされた作品も多数存在する。

 

 その中でも最も有名なのは藤子・F・不二雄の「パーマン」であろう。

 

 藤子・F・不二雄の「パーマン」は1966年から2年間、1983年から3年間と2度に渡って連載されており、1966年のものは「旧作」と呼ばれ1983年からのものは「新作」と呼ばれている。 言ってみれば今で言う「リメイク作品」なのであるが、1983年にリメイクされるにあたりいくつかの設定変更がなされている。例えばパーマンの飛行時の最高速度が旧作では91キロだったのが新作では119キロになったり、動物園のチンパンジーだったパーマン2号ことブービーが新作では子供のいない老夫婦のペットになったり、パー子の正体である星野スミレの顔も旧作と新作では顔が全く違っている。しかし中でも一番大きな変更はやはり主人公の須羽ミツ夫をパーマンにした「スーパーマン」であろう。

 

旧「パーマン」第1巻「パーマン誕生」より

 

 この「スーパーマン」は実はコスチュームも若干の変更があるのだが最も大きな変更はその「スーパーマン」という名称そのものなのである。旧作では「スーパーマン」を名乗っていたが新作では「バードマン」に変更にされていた。

新「パーマン」第1巻「パーマン誕生」より

 

 変更の理由については公式には発表されていないが、ファンの間では恐らく「スーパーマン」という名称が 著作権・商標権に引っ掛かる為ではないかと推測されている。 1960年代ではそううるさくなかった商標登録も1980年代においてはかなり厳しくなっており、「あいつはまるでスーパーマンだ」と固有名詞として使う分には問題はないが、キャラの名称を「スーパーマン」にするのはマズイというわけだ(同様の理由で近年ドラマになった同じく藤子・F・不二雄原作の「中年スーパーマン左江内氏」もドラマではタイトルが「スーパーサラリーマン左江内氏」に変更になった)。

 

  「スーパーマン」→「超人」→「鳥人」→「バードマン」 という訳(その為か新作ではコスチュームも鳥っぽくなっている)だが、しかし ここでひとつ大きな問題が生じている。それはこの改変によりその後に続くセリフが意味不明になってしまっているのである。

 

 

 

 ミツ夫にパーマンセットを与え、パーマンとは何かを説明する際に「ほんもののスーパーマンにはおよばないので、これをパーマンとよぶ」というセリフがある。つまり「スー」を取って「パー」という訳だが、しかし「バードマン」という名称ではどうして「パーマン」という名称になるのか意味がわからなくなってしまうのである。そもそも「そう、きみたちのことばでいえば・・・・・。バードマンだ」というセリフもかなり意味不明になっている。ちなみにこのセリフ、小学館コロコロ文庫版と 2003年版のてんとう虫コミックスでは「超人だ」に変更されている。

小学館コロコロ文庫版「パーマン」第1巻より

 

 これは「そう、きみたちのことばでいえば・・・・・・・・」という意味では正しいかもしれないが、しかしこれではどうして「パーマン」と呼ぶのか「バードマン」の名称以上にわからなくなってしまうのである。むしろ同じカタカナである分「バードマン」の方がマシかもしれない。

 

 こうして改変によりセリフが意味不明になってしまう例を私は個人的に「バードマン現象」と(勝手に)呼んでいる。

 

 ちなみに2009年に刊行された「藤子・F・不二雄 大全集 パーマン」では初出時の再現という意味で晴れて「スーパーマン」という名称が使われている。ワーナー社とDCコミックス社から許可を得たのかは不明だが今のところ問題はないようである。

 

 余談であるが実はパーマンとスーパーマンのコスチュームは最初に掲載された「小学3年生」版と「小学4年生」版では大きく違っている。

 

 色もデザインなんとなく「クレヨンしんちゃん」の「アクション仮面」に似ているスーパーマン。

 

 

  「ドラえもん」の最終回が複数あるように「パーマン」も複数の雑誌に連載されていた関係から第1話が複数存在していた。「小学3年生」版と「小学4年生」版の第1話ではこのようなデザインだったのだ。しかし「小学3年生」版と「小学4年生」版もコスチュームが親しみにくいという理由で2回目から現在のデザインである「少年サンデー」版のデザインと統一されている。 このデザインが違う第1話は長くどの単行本でも未収録でファンの間でも幻とされていたが「藤子・F・不二雄大全集パーマン3巻」に初収録され、晴れて日の目を見る事ができた。長生きはするものだなぁとつくづく思う。