
【出演】
中谷美紀、藤竜也、田中圭、甲本雅裕、下元史朗、木下ほうか、山田雅人、平泉成、八千草薫、山口美也子、徳井優、並木史朗、桂雀々、渡辺いっけい
【監督・脚本】
三原光尋
“小さな奇跡を、心で味わう物語(スロウムービー)”
ようこそ、小上海飯店へ。
心のごちそう用意して、お待ちしております。

デパートの営業職として働く山下貴子。
ある日、デパートへの出店を交渉するために、金沢の町外れにある小さな中国料理店‘小上海飯店’に出向く。
店主は、職人気質の料理人・王さん。
出店の話はにべもなく断られるが、貴子は昼の定食を食べることに。
名物の蟹シュウマイをはじめとする、思わず顔がほころぶほど美味しい料理の数々に驚きを隠せない貴子は、その日から店の常連客となる。
王さんとは一言も会話を交わすことはなかったが、料理を通して二人の心には何か温かいものが生まれるのだった。
そんな時、厨房で突然、王さんが倒れ、貴子は病院に見舞いに駆けつける。
笑顔を見せる王さんだったが、医者からは「脳梗塞で麻痺が残る体では以前のように料理をすることは難しい」
と告げられてしまう。
退院して、重い中華鍋を振ることができず、ひとり苦悩する王さんに、貴子は生きていればちょうど同じ年齢の洋食のシェフだった父親の姿を重ねる。
一方、中国・紹興出身の王さんもまた、妻と娘を疫病で亡くすという悲しい過去があった……。
さまざまな思いを胸に、貴子は会社を辞めて、料理人として王さんの弟子になることを決意。
「会社辞めました。私に料理を教えてください!」
その真剣な眼差しと熱意に動かされて王さんも心を決める。

女手一つで幼い娘を育てながら、料理人を目指す貴子の修行生活は、決して楽なものではなかった。
だが、貴子の頑張りを見守る店に出入りする農家の青年・明らに支えられて、一歩ずつ着実に料理人として成長していく……と同時に、貴子は王さんとの確かな絆を感じていた。

そんな中、貴子は地元の謝恩料理会に出場するが不運が重なり大失敗し、二度と厨房には立てないと落ち込んでしまう。
王さんは、古くからの知人で加賀友禅の工房を営む百合子から、「跡取り息子が結婚することになり、両家の食事会を小上海飯店で開催したい」と打診される。
「自分にはもう無理だ」と拒むが、食事会の料理人を貴子に任せるという名案を思いつく。
人生を一歩前進させるために、王さんは貴子を故郷・紹興の旅へと誘う。
王さんの料理人としてのルーツや、人生の真実を肌で感じる貴子。
伝説の料理人の帰郷を祝う町の人々に、王さんは貴子を‘娘’として紹介する。
「私の娘です。大切な娘です」
それを聞いた貴子は、一人前の料理人になる決意を新たに帰国。
再び特訓を開始し、食事会の日は、刻々と近づいていく……。
「王さんの料理と出会えて、私なんだかとっても嬉しかったんです」

石川県金沢市にある小さな中華料理店を舞台に、料理人の店主とキャリアウーマンだった女性との絆を描く人間ドラマ。
金沢の港町にポツンとある中華料理店。
年老いた中国出身の名料理人が丹精込めて作る料理は、お客さんに‘しあわせをもたらす’逸品ぞろい。
ある日突然、病に倒れた店主に協力を申し出たのは、幼い娘を抱えた若い女性。
最初はぎこちない名人と弟子の関係は、やがて確かな絆へと変わっていく。
心がほっとするような温かかと優しさ、そして人間の絆の物語がハートフルに綴られていて涙を誘います。
また、50種類以上もの中国料理のほか、地元・石川県の食材を使用した創作料理も次々に登場。
(これが、とにかくメチャメチャ美味しそう!)
数々の料理を作る様子を丁寧に見せ、そして作る人、食べる人のそれぞれにあるエピソードを絡めて……クライマックスらしいクライマックスはないけれど、とても静かに淡々と進むシンプルなストーリー展開が心地良い。
中国訛りのある日本語で、ちょっと頑固だけれど根は優しい王さんを演じた藤竜也が好演。
厨房に立ち、真剣に料理に取り組む表情は、料理人としての威厳みたいなものが表れていました。
それから、脳梗塞で倒れて以来、足が不自由になり、利き腕もきかなくなってしまい、鍋までもが振れなくなった際に見せる苛立ちと悲しみ。
弟子となった貴子を見守る温かい眼差しなど、どれもが素晴らしい。
子供と引き裂かれて落ち込む貴子の掌に‘幸福’と指で書いて、
「これを胸に当てなさい。しあわせになれる‘まじない’です。大丈夫!これでしあわせになれますよ」
こう励ます王さんの姿に、こちらも涙。
ラストで、王さんと貴子が並んで厨房に立つシーンもいい。
共同作業で鍋を振り、王さんの原点の料理である‘卵トマト炒め’を作る。
それこそ「みんなにしあわせをもたらす料理」なのです。