『家族』

【出演】
井川比佐志、倍賞千恵子、笠智衆、前田吟、花沢徳衛、森川信、ハナ肇とクレージーキャッツ、渥美清、春川ますみ、太宰久雄、三崎千恵子
【監督】
山田洋次
“日本列島を南から北へ……”

風見精一の一家は、故郷である長崎県伊王島での生活に限界を感じ始め、清一の勤め先の倒産を機に、開拓のため北海道標津郡中標津町へ移住することとなった。
ずっと酪農を夢見ていた精一の決断によるものであった。
妻の民子の反対により、当初は、精一が単身で移住することになっていたが、彼の固い意思の前に民子が翻意し、まだ幼い子供二人を含む家族で移住することになったのである。
同居していた精一の父・源蔵については、高齢であることから、広島県福山市に住む次男夫婦の家に移ることになっていた。
一家は、桜が咲き始める4月はじめ、伊王島の家を引き払い、まず福山に向かう。
しかし、ここで次男夫婦が必ずしも父親を歓迎していないことが明らかに。

結局、民子の発案により、父親も一緒に北海道へ移住することになった。
こうして一家5人の列車を乗り継ぐ北海道への旅が始まり……。
大阪で日本万国博覧会を見物した後、その日のうちに東京に到着。
長旅のため具合を悪くした赤ん坊である長女の為に、急遽一泊する旅館を取るが、ひきつけを悪化させてしまい、近くの医院に駆け込むものの……治療の遅れからそのまま亡くなってしまう。
悲嘆に暮れる間もなく、一家は北海道へ急ぐため、火葬を取り急ぎ済まし、気持ちの整理ができぬまま、東北本線、青函連絡船を経て北海道を東上する。

やっとの思いで、まだ雪深い夜の中標津にたどり着いた頃には、一家は疲れ果てていた。
次晩、地元の人々から歓待をうけ、上機嫌の源蔵は炭坑節を歌い、一家はようやく落ち着くかのようにみえた。
が、源蔵は歓迎会の晩、布団に入ったまま息を引き取ってしまう。
家族二人を失い、後悔と悲嘆にくれる精一。
民子は、
「やがてここにも春が来て、一面の花が咲く」
と慰め、励ます。
中標津の大地には二つの十字架がたった。
6月、北海道にもようやく春がきて一家にとって初めての牛が生まれた。
そして民子の胎内にも新しい命が宿っていた……。
大阪万博たけなわの高度経済成長期の1970年、長崎の小さな島を出て北海道の開拓村へ向かう5人の家族による日本列島縦断の旅を描いたヒューマン・ロードムービー。
なるべくドラマ性を排除し、全編ドキュメンタリータッチで進むリアリズム手法は、旅の過酷さを綴ると同時に、当時高度経済成長期にあった日本の冷徹な部分も克明に映し出す。
万博を象徴として組み入れ、風見一家の貧しさと対比させた演出は、興味深い。
(万博の入口から中だけを見遣り、それを記念とする家族の姿が切ない)
日本を南から北まで……船→鈍行列車→新幹線→夜行列車→青函連絡船→再び夜行列車と長い長い移動。
その間に赤ん坊の娘は死に、清一の父も長旅の疲労から北海道に着いたその夜に息を引き取る。
大きな荷物を幾つも抱えての強行移動に‘なんで飛行機を使わない?’との単純な疑問も沸くけれど、当時の飛行機代は高額で庶民にはまだまだ高嶺の花だったようだ?
島の住民が「一生懸命お金を貯めて、いつかジェット機で北海道に遊びに行くから」という台詞からも、それが窺える。
(41年前って、そんな時代だったんですね)
現代では考えられないことだが、今から41年前の1970年代初頭の日本の現実的側面を(都会と田舎に住む者との金銭的ギャップ等)まざまざと見せつけられた。
北海道に向かう風見一家は、亭主関白に見えて実は気弱な夫、そんな夫を支えるしっかりもので気丈な妻、穏やかな性格も時に息子や孫を叱咤する祖父、そして3歳の男の子とまだ1歳の赤ちゃんの5人家族。
彼らが日本横断の旅をする途中で描かれるは高度成長期であった1970年の変わり行く日本の風景と、様々な人々。
現地の素人を多数出演させており、それがリアリティを増幅させて見事に効果を上げています。
かなり悲惨な物語でもあるのですが、登場人物それぞれの気持ちが痛いほど伝わってきて、いつの間にか風見家の人たちと同じ気持ちになって一緒旅をしているような気分にすらなってくる。
この映画に出てくる日本は、日本列島改造の時代でもあり、多くのものが失われていく過程の日本であるとも感じました。
博多、福山、大阪、東京など昔の街の風景が随所に出てくるのも貴重かと。
(万博や、まだパンダがいない頃の上野動物園も登場する)
田舎者丸出しで都会の喧騒に唖然とし、超ラッシュ時の山手線でもみくちゃになりながら必死に耐えるその様は、あまりにも痛々しい。
「こんな時間に子供連れなんて無茶だよ!」
と詰る乗客に、清一は……
「上野まであと何駅ですかいね?」
旅の悲劇を乗り越えて新天地で前向きに生きようとする家族のたくましさと美しさ。
明るい希望を暗示させるラストは、とても清々しく……その民子の笑顔からは、「絶対にくじけてはいけない、強くなくてはいけない」と訴えかけてくるように映ります。
井川比佐志、倍賞千恵子が好演。
そして何より素晴らしいのが笠智衆だ。
朴訥とした雰囲気、優しい笑顔、時に垣間見せる頑固な一面、ビールを口にした時の幸せそうな表情……等など、思わずウルウルきてしまう。
まさに‘日本のおじいちゃん’!
『男はつらいよ』が始まって1年後の作品で、さくらこと倍賞千恵子、御前様こと笠智衆のメイン陣の他にも、博、おいちゃん、おばちゃん、タコ社長、そして寅さんと‘寅さんファミリー’も端役役で総出演!
渥美清はずっとマスクをし……且つ、後ろ姿や遠目でしか映らないためその顔はほとんど拝めず。
それから旅館の主人役のおいちゃんこと森川信がテレビを観て笑い転げ、「こいつ、ホントに面白いなぁ」
そのテレビに出ている‘こいつ’とは……実は渥美清という楽屋落ち的シーンも!
また、植木等と谷啓を除くクレイジーキャッツのメンバーが本人役で登場し、それを見た子供が「あっと驚く為五郎がいたよ」と母親に報告する遊び心あふれるシーンまであります。