某シネコンにて『ハードロマンチッカー』を鑑賞。

【出演】
松田翔太、永山絢斗、柄本時生、渡部豪太、川野直輝、落合モトキ、遠藤雄弥、金子ノブアキ、石垣佑磨、遠藤要、真木蔵人、渡辺大、芦名星、真木よう子、中村獅童、渡部篤郎、白竜、淡路恵子
【監督】
グ・スーヨン
“必死に生きとる男達の気が狂うほどマトモな日常”

日本の本州の西の端っこ。
山口県の、三方向を海に囲まれた港町・下関。
在日韓国人二世のグーは、高校中退のフリーターで、街を歩けば子供時代から顔なじみの郷野組組員・庄司から物騒な預け物を押し付けられたり、下関署の刑事・藤田から何かとカラまれたりと‘よしなしごと’にぶつかる毎日。

ある日、友人の金子から、後輩の辰とマサルが敵対する‘チョー高’のキムチョンギの家を襲撃したと聞く。

キムは不在であったが、そのバアさんを撲殺、しかも火を放ち、マサルは逃げ、辰は警察に捕まったとか。
「相手を痛めつけるには家族や恋人を狙うのがええ」
いつかそう辰にうそぶいてアドバイスをしたグー。
「俺、そんなこと言ったかな?覚えとらんわ」
そして、事件の真相を求めさまようグー。
だが、行く先々で暴力の火種がくすぶっていた!

絡んできた生意気なガキをちょいと痛めつけたら、兄貴がチョー高ボクシング部OBのパクヨンオだったり。
「俺はパクヨンオの弟やぞ」
「誰じゃ、それ?知らんわ、ボケ」
その時、うっかり金子の名前を騙ったために、チョー高に報復された金子からも恨まれたり。
さらに友人のタカシを訪ねれば、トルエン臭い部屋の中、ここにもチョー高OBのイーパッキとカンテファンの姿が。
口の中にカッターナイフの刃を突っ込まれながらレイプされる女子高生を見かねたグーは、思わず連中に一撃食らわしてしまう。
これでいよいよ下関は敵だらけとなってしまった。
「グーの野郎、捜し出せや!ぶっ殺したる!」
そんなグーは、ひょんなことから関門橋を渡って、福岡県小倉の繁華街に新たな居場所を見つける。

得体の知れない男・高木に気に入られ、小倉の高級クラブのマネージャーを務めることになったのだ。
「あ、そこら辺の隅でウロウロしている連中は轢いちゃってもいいから」
「了解でぇす」
と、高木の車を運転して店へと向かうグー。
その高木の紹介でホステスのナツコの家に居候することになる。
「お前んところに置いてやんなよ。大丈夫、グー君は変なことはしないから」
「……変なことしちゃいますよ」
「ま、いいんじゃない」

仕事の合間には下関を離れる前に付き合った高校生のカノジョ・みえ子と電話で語り合ったり、ようやく世間並みの平穏と青春を手に入れたかに思えた。
が、この新天地もまたキナ臭さに満ちていた。
実は高木の正体は郷野組と敵対する伊藤組の幹部で、ヤクの密売に手を染め、ナツコには売春を強要していたのだ。
「金のためやったら、あんなハゲ親父とでも寝るんか?」
さらにグーは、自分を連れ戻しにやってきた祖母から、庄司の死を聞かされる。
下関ではチョー高の連中や金子たちが血眼になってグーを捜し見境なき報復を繰り広げている最中だが、庄司からの預かり物を姐さんに届けるため、再びしがらみに足を踏み入れる決意を固めたグー。

「やるんやったらやるぞぉ」

暴力という選択しか知らないグーは、その果てになにを見るのか……?!
「すっとぼけんなよコラ!」

閉塞感に苛まれ、強がりのみで刹那的な暴力に生きる、男と女の痛々しい姿。そしてセックスが、ヤバいクスリが、ディープな愛と憎しみが溢れる疾風怒涛の日々を描くハード・バイオレンス・ムービー。

松田優作の故郷でもある山口県下関市で、松田翔太が暴力の限りを尽くす!
主人公のグーは(本名は明かされない)ハード・バイオレンスの世界に身を投じており、友人はいるが決してツルむこともせず、逞しく生きている。
彼はクールな眼差しを保ちながら、必然的に街の喧騒に巻き込まれていき、行き場のない暴力と向き合う。
暴力描写は壮絶。
喧嘩のシーンも、華麗な殺陣は一切なしの超リアル指向でかなりエグい。
鉄パイプでおもいっきり何度も殴りつける、馬乗りになって顔面を乱打する、蹴りを何発もぶち込む!
その際の‘音’も生々しいものが。
(殴りつけた後、拳が赤く腫れ上がり、それを痛そうにするあたりなんかも生々しい)
流れ出てしたたる血や、ボコボコに腫れあがる顔面など、やられた側の姿も真に迫っている。
その暴力は男だけでなく女にも向けられる!
朝鮮高校の生徒が男女4人組をカツアゲするシーンは、惨いの一言。
一人だけ金を渡そうとしない女子高生が、こう言い放つ。
「チョンのくせに」
すると男は彼女を押し倒し馬乗りになって……ヘラヘラ笑いながら、情け容赦なく延々と……殴る、殴る、殴る!
哀れ、女子高生の顔面は血だらけのお岩さん状態に。
その悲惨な姿をカメラは冷徹に映し出す。
とにかくエグすぎる!
いくら演技とはいえ、女の子があそこまでボコボコにされる様を見せつけられるのは、ちょっと不快かも。
しかしその痛みがモロに伝わってくるような暴力シーンは必見でもある。
(北野武作品の暴力描写も痛いが、この作品もそれに負けないくらい痛い!)
グーは、友人が起こした殺人事件の発端にも間接的に関わっている。
「相手を痛めつけるにはな、その家族か恋人をボコるのがええ」
(ただグーは、「そんなことを言った覚えはない」とすっかり忘れているのだが)
その言葉を真に受けた辰とマサルが憎き相手・キムの家に侵入し、ひとりでいた祖母を鉄パイプで撲殺し、さらには放火までして証拠隠滅を企てる。
この事件を機に、下関の街は揺れに揺れる。
グーが動けば動くほど話がこじれていき……やがては地元の不良、在日の不良、ヤクザ、警察と全方面から狙われる羽目となってしまい、暴力の連鎖が巻き起こるのだ。
そこに、我れ関せず傍観的な友人のタカシ、女子高生で売春をしているみえ子、昔からの知り合いのヤクザ・庄司、やさぐれ刑事・藤田、グーをスカウトして小倉のクラブで働かせる高木、ホステスのナツコ、そしてグーの因縁の相手であるパクなどの濃いキャラの登場人物たちが絡み、様々なエピソードが挟まれていく。
下関のコリアンタウンという側面を捉えつつ(日本人が在日人を蔑称で見下す件りがやたらと多い)暴力という選択しか知らないグーの延々と続く戦いを通して描かれる寄る辺なき若者の魂の叫びが胸に迫ります。
己の出自や境遇に対する怒りが暴力に繋がっていると感じさせるが、同じ境遇にいる連中からも、
「もうほっとけや。こいつはキ○○イだ。完全に狂っとる」
と呆れ返って言われてしまい、最後には誰にも理解不能の存在になってしまう。
グ監督の自伝的小説が原作だが、昭和時代の話を現代に置き換えているため、全体的に何となく‘昭和’っぽい雰囲気も漂う。
そこが往年の東映のバイオレンス映画や、東映セントラルフィルム的な臭いも醸し出しているあたりもツボにハマった。
また丁寧な説明は排除し、観客の想像力を喚起させるような演出もよい。
エンドロールでは登場人物たちの‘その後’が紹介されるのですが、グーは……‘消息不明’。
主演の松田翔太がオールバックの金髪にヒゲとワイルドな風貌で、凄まじい壊れっぷりを披露!
クライマックスで……鉄パイプを引きずり、カラカラと音を立てながら因縁の相手・パクの元へと向かう悲壮感漂う姿は、痺れるくらいカッコイイ。
在日の優作が生まれ育った下関で、優作の役者魂を引き継ぐ翔太が下関で暮らす在日二世を演じる。
このキャスティングは必然なのだ!
ちなみにエグゼクティブプロデューサーのひとりで、あの角川春樹が名を連ねている。
『人間の証明』で優作を起用した角川春樹が、約35年の時を経て今度は息子の翔太を起用したというのも興味深い。
10分毎に暴力シーンがあるので、あまり声を大にしてオススメできる映画ではないけれど、観て損はない映画だと思います。