『ハラがコレなんで』【1】 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

ユナイテッドシネマ浦和にて『ハラがコレなんで』を鑑賞。


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【出演】
仲里依紗、中村蒼、石橋凌、斉藤慶子、稲川実代子、並樹史朗、竹内都子、大野百花、近藤芳正、螢雪次朗、森岡龍、大石吾朗、目黒真希


【監督・脚本】
石井裕也




“「自分のことより、他人のこと」 周りのみんなを元気にする、粋な妊婦ヒーローの誕生!”


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「何もやる気が起こらないんですよ」
と泣くリストラされたサラリーマンのインタビューをテレビで見て、同情してもらい泣きの女……妊娠9ヶ月の原光子。

だが、そんな光子の方こそ、切羽詰まった状況にいた。


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お腹の子の父親はアメリカ人の元カレで、今はどこにいるのか分からず、お金も底をつき、完全に限界に達していたのだ。
しかもパチンコ店を営む両親には、「アメリカに住んでいる」と嘘までついている始末。

そんな両親に電話をするも……
「おお、光子!元気でやってるか?どうだ、アメリカは?How are you?」
「あ、あいむふぁいんさんきゅう」
「すっかりアメリカ人じゃないか~」
「……また電話するわ」


そんな光子は、イマドキの若者には珍しく義理人情に厚く、根拠のない自信に満ちており、至ってマイペース。
‘粋に生きる’ことが人生において最も大切だと考える彼女にとっては、多少の困難なんか全て「OK!」なのだ!


隣に引っ越してきた女の部屋に勝手に上がり込み……
「タクアン食べます?」
「何なんですか!勝手に人のウチに入ってきて!」
「あ、大丈夫です。あたし、そういうの気にしないんで。あたしのウチにも勝手に入ってもらっちゃって構いませんから」
「はあ?何言ってるんですか!」
「タクアン食べます?タクアン」


いよいよ行くあてがなくなった光子は、アパートを引き払うことにし、調度品やら何やらをリサイクル業者に買い取ってもらうも……
「たいしたモンがないので、逆にお金かかっちゃいますけど」

光子は6000円を渡し、
「OK!お釣りはいらない」

そして無言でタクアンを差し出すのだった。

遂に財布の中身は小銭のみ。光子はカートを引きずってアパートを出る……隣の部屋の前にタクアンをそっと置いて……。


公園にたどり着いた光子は、そこでテレビでインタビューを受けていたリストラ男と遭遇し……黙って全財産の小銭を手渡す。

「え?あの……」
「いい風吹いてない時は、昼寝が一番。焦ったり、慌てたり、しみったれた顔してんのは、粋じゃない。大丈夫!風向きが変わったら、その時ドーンと行けばいいんだから」
とベンチにゴロン。


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すると……風向きが変わった!

「ほーら、変わった!OK!行くか!」


無一文のくせにタクシーに乗り込んだ光子は、
「あの雲が流れる方向へ行ってください。OK!」


風に吹かれるままのように、小さい頃に住んでいた長屋へと赴いていた……無賃乗車で!?


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その長屋は、開発が進む周りから取り残されたような‘昭和’の雰囲気。
光子が子供時代に、パチンコ店の経営に失敗して夜逃げした両親と暮らしていた場所なのである。


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迷惑なくらい元気で毒舌だった大家のおばちゃん・清は寝たきりになっていて、「戦死した夫の元へ行きたい」と、床下にあるはずの不発弾が爆発する日を待っている。


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「光子、光子じゃないか!何しに戻ってきたんだい!?」
「あたしはただ、浮き雲について来ただけだから。強いて言うなら、風に聞いて」
「あんた、妊娠してんのかい?誰の子だい?」
「なんかジャックっていう黒人のアメリカ人が……あれ?アフリカなのかな、ホントは。まあ、とにかく黒くてデッカいんだけど、そいつが日本で困ってたから助けてあげたんだよね。それが粋だと思ったから。そのあと流れでアメリカまでついて行ったんだけど、流れで妊娠してさ、それで流れで別れて。でも、あたし別に泣いてないし、風の向くまま流れで帰国したんだよね。ま、人間なんて大なり小なりそんなもんでしょ。流れ次第、風次第みたいなところあるよね。いいじゃん、そんな細かいことは」
「それでこの先どうするんだい?」
「ここでドーンと産むよ。ま、おばちゃんには迷惑かけると思うよ。でもその代わり、おばちゃんの迷惑は全部あたしが引き受けるから……それって粋」
「あんたね、何でもかんでも‘粋か、粋じゃないか’で判断するのおやめよ」
「それ、教えてくれたの、おばちゃんじゃん。とりあえずさ、お金貸してくんない?OK!」

こうして光子は、清の面倒を見ながら、長屋で出産することを決意する!


貧乏人ばかりだったが、賑やかで義理と人情に溢れていた長屋も今では閑散とし、残っているのは……光子の幼なじみの児玉陽一とその叔父・次郎だけ。

二人は客がほとんど来ないレストラン(というより大衆食堂)の‘YOICHI'S RESTAURANT’を昔と変わらず営んでいる。


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そこにふらりと現れる光子。

15年前に「大きくなったら結婚してくれ。お前が一番好きだから」と告白して以来、その言葉にずっと責任を持ち、光子を思い続けていた陽一は、心の中では再会を喜ぶも、動揺を隠せない。

「店は汚いけど相変わらず旨いなぁ、レバニラ炒め」


陽一は両親に捨てられた自分を男手一つで育ててくれた次郎に対し、「自分だけが幸せになってはいけない」と感じている。


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その次郎も、喫茶店‘べる’のママに長年想いを寄せながらも、お世話になった清を残して、ママに想いを伝えることなんてできないと思っていた。


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「妊婦は鼻が敏感になってるからさぁ……やっぱ白いお米はNG!」
「そう言いながらモリモリ食ってんじゃねえかよ!」

そんな二人のところに、いつものように清に夕食を届けにきた陽一は、光子に預金通帳を渡し、
「お腹の子供の面倒は俺がみる!15年前だけど、俺はお前に好きだと言ったからその責任がある」
「粋だねぇ!好きだなんて言葉、屁よりも軽い時代にねぇ」
と通帳の残高を見て、
「ハ~、あすこも経営大変なんだね。こんな額じゃ、人の子供はおろか、メダカの面倒さえみれないよ。そりゃそうだよね。店汚いし、店員無愛想だし。OK!あたしがあの店、面倒みる!」
「え!?いや……あの……」
「ま、あたしもハラがコレなんで、たいしたこと出来ないかもしんないけどさ、任せて。OK!」


昔から相変わらずの貧乏な住人たちが待っていたが、皆優しさが裏目に出て元気のない大人たちばかり。


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出産間近&父親なし&お金なしのかなりの限界であるはずの光子だが、それでも自分のことを棚にあげて、他人を助けようとするのだった。


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翌日から、光子の気合いの入った客引きが始まる。
外に出て行ったかと思うとどこからか客を連れて来て……‘顎’をしゃくって店内に誘導し、なぜか厳しい表情で……
「いらっしゃいませっ!」

そしてリストラされた客の身の上話に本気で涙し、励まし……
「焦ったり、慌てたり、しみったれた顔してんのは粋じゃない。大丈夫、風向きが変ったら、そん時ドーンと行けばいいんだから。今は気楽に待っとこうよ」

時には……
「OK!今日は全員、あたしの奢り!」
「おーーーーーー!」
「OK!」

やがて光子を慕う客で、店は繁盛し始める。

「最近、光子のお蔭でお客さんが増えたよ。でも、売上は全然変わってないけど……」



産婦人科の定期検診では、
「逆子だから難産になるかも。安定期がなかったんだね」


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「大丈夫!今までもこれからも、あたしの人生に安定期なんてないんですよ、先生。でもそれでいいんです。自信、ありますから」


「子供のために安静にしてろ」
と心配する陽一には、
「子供のため子供のためって、大人が粋じゃなかったら、子供だって生まれてきたいと思うわけないでしょ。大人がしっかりしなきゃ、何やっても子供のためになんかならないんだからね」


次に光子が取り組んだのは、陽一と次郎の‘結婚問題’。

光子に「俺が面倒みる」と言いつつも、自分だけが結婚するわけにはいかない陽一。
ママが店を閉めて病気の母親がいる福島に帰ろうとしているのに、引き留めることもできない次郎。

「いなくなってもいいんですか?」
「…………」


じれったく思った光子は、孤軍奮闘し、一気に問題を解決しようと考え……
「OK!福島に行こう!」
「はあ?」
「みんなで福島に行こう!」


と、そんなところへまたしても夜逃げしてきた光子の両親がやって来る!
「お前、何でここにいるんだ?アメリカじゃなかったのか?どういうことだ、光子!」
「しかもあんた妊娠してるの?どうなってんのよ?」
「OK!それ、風に聞いて。あたしはお父さんに聞かないよ。なんでここにいるのとか聞かないよ。だって、それ、粋じゃないじゃん……聞いたり聞かれたり。雲に聞いてごらん。なんでフラフラ流れてるんですかって。そしたらこう言うよ。風に聞いてごらんって」


光子のお腹に驚く両親、次郎を叱り付ける光子、結婚はしないと宣言する次郎、早く死にたいと嘆く清……長屋は大混乱に陥る!

「OK!一旦、昼寝しよう!気楽に待ってれば、そのうちきっといい風が吹くから」

その光子の号令で、昼寝を始めると……そこにあっと驚く一陣の風が吹く!

「OK!行くよ、福島!」


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「お母さん、フラフラしてたから、あんたにいろいろ迷惑かけたね。でも、これからはもっとかけるよ。でもいいじゃない。あんたもお母さんに迷惑かければ。お母さんの準備はOK!ドーンと行くよ!」


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