
【監督】
矢口将樹
“まあ、いいんじゃないですかね”
石井輝男監督は2000年、‘徹底した現場主義’を掲げた映画塾「CINEMA21」を立ち上げる。

石井監督をはじめとし、監督、脚本、撮影、照明などのベテラン映画人を講師をして招いたこの塾には、20代を中心とした若者が多数集まり、現場で通用する映画造りのノウハウを学んでいった。

2000年晩秋、石井監督は遺作となった『盲獣VS一寸法師』に取り掛かる。

驚くほどの低予算で製作されたこの作品のスタッフには、当然の如く「CINEMA21」出身者が多数参加。
また、新たに加わったスタッフも彼らと同年代の若者が殆どであった。
彼らにとって、いくら現場に則した技術を学んできたといっても本当の現場は全くの初めてである。

かくして、石井監督とその教え子たちの奮闘の日々が始まった……。

‘キング・オブ・カルト’として名を馳せた鬼才・石井輝男の素顔に迫る貴重な映像記録のドキュメンタリー。
『網走番外地』シリーズを連続NO.1ヒットさせ、東映随一の大ヒットメーカーでありながら、1968年よりポルノ映画、それも「異常性愛路線」と呼ばれる一連のエログロ作品を(『徳川女系図』『温泉あんま芸者』『明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史』など)率先して作るようになり世間を驚かせた石井監督。
70年代までに東映のエログロ作品とアクション作品を(『直撃!地獄拳』シリーズなど)量産し、90年代に入るとつげ義春や、江戸川乱歩の世界へ傾倒していく。(『ゲンセンカン主人』『無頼平野』『ねじ式』『地獄』など)
伝説的な代表作『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』は、カルト中のカルト作品として熱狂的なファンを持つ。(問題ありの作品のためDVD化が不可能で、観れる機会がほとんどないのが残念)
惜しまれつつ81歳で他界した彼の遺作である『盲獣VS一寸法師』の撮影現場を、あの熊切義和監督が撮影し、石井輝男の最晩年の姿、演出風景が一挙に映し出される!
カメラに収められているのは76歳の時の石井監督の姿ですが、その演出方法は超ユニーク&超パワフル!(そしてファッションも常に皮パンを愛用し、76歳とは思えないほどオシャレ)
現場第一主義なのか、脚本は完全無視?
その場その場で感性に任せるがままに、思い付きで台詞や動きをどんどん変えていき、戸惑いまくる役者たち。
そして最後にこう一言。
「あとはテキトーにやってください」
「何、やってんだよ!そうじゃないだろ、下手くそ!」
若い役者には否応なしに罵声を浴びせかけたかと思えば、ベテラン勢や主要キャスト、そして子役には一転して丁寧、且つやたらと気を使う姿が可笑しい。
作中に登場するは、リリー・フランキー、塚本晋也、佐野史郎、及川光博、園子温、リトル・フランキー、手塚眞、そして在りし日の丹波哲郎。
あの丹波哲郎を「丹波ちゃん」と呼べるのは石井監督くらいだろう?
(ちなみに深作欣二監督のことは「作ちゃん」と呼んでいた)
そんな石井監督が天然ぶりを発揮(?)するのが、リトル・フランキーに演出をつけている時。
ずっと「リリーさん、リリーさん」と呼んでいて、その度にスタッフが小声で……「リトルさん」と訂正。
それでも監督は「リリーさん」と呼び続ける。
メチャメチャ笑えます


破天荒なようでいて、どこか愛嬌もある石井監督の愛すべき人間像が余すところなく映し出されている見応え満点のドキュメンタリーでした。