
【出演】
寺尾聰、樋口可南子、小西真奈美、田村高廣、香川京子、吉岡秀隆、井川比佐志、北林谷栄
【監督・脚本】
小泉堯史
“いつの間にか、遠くを見ることを忘れていました”
東京に住む上田孝夫と美智子の夫婦。
夫は新人賞を受賞するも、それ以降なかなか日の目を見ない売れない小説家。
妻は大学病院で最先端医療に携わる有能な医者だった。
あるとき、美智子はパニック障害という原因不明の心の病にかかる。
仕事にも、都会の生活にも疲れていた二人はそれをきっかけに、孝夫の故郷、信州に移り住む。

山里の美しい村に帰った二人は、96歳の老婆・おうめを訪ねる。

彼女は、阿弥陀堂という村の死者が祭られたお堂に暮らしていた。
何度かおうめのところに通ううちに孝夫は、喋ることが出来ない難病を抱える少女・小百合に出会う。
彼女は村の広報誌に「阿弥陀堂だより」というコラムを連載していた。
それは、おうめが日々思ったことを小百合が書きとめ、まとめているものであった。
それまで無医村であったこの村で、美智子は診療所を開き、おうめや小百合、そして村の人々の診察を通して、医者としての自信と責任を取り戻してくる。
一方の孝夫は、中学校の時の恩師である幸田重長がガンに冒されながらも死期を潔く迎えようとしていることを知る。
幸田に寄り添う妻のヨネの生きる姿に、深い感銘を受ける孝夫。
二人は村の人々とふれあい、自然に抱かれて暮らしていくうちに、いつしか生きる喜びを取り戻していくのであった。

そんな時、小百合の病状が悪化していることが判明する。
すぐに手術をしなければ命が危ないという事態に、美智子は彼女の手術担当医として再びメスを握ることを決意するのであった。

現代社会の中で忘れてしまった生きることの感動を取り戻す夫婦の姿を描いた人間ドラマ。
東京での生活に疲れた夫婦が夫の実家がある長野県に戻ってきたところから映画は始まる。
二人は大自然の中で暮し始め、様々な悩みを抱えた人々とのふれあいによって、徐々に自分自身をそして生きる喜びを取り戻していく。
日本の社会が、全体に息切れをしているような時代。
そんな時、自分が生きていることをもう一度見直すために、奥信濃に帰ってきた夫婦と、それぞれに悩みを抱えた人々の姿が深く胸の奥に残ります。
四季の変化がはっきりと描写されしており、春、夏、秋、冬それぞれの美しさが現実に近い空気感を生み出し、そこでの出来事を一緒に体験したかのような気持にさせてくれる。
また四季の移ろいと共に見られる風景、祭り、行事、季節の風物詩など、誰もが懐かしいと感じてしまう不思議な想いも感じます。
静かに淡々と進むストーリーは、まるで古きよき時代の日本映画を観ているかのよう。
小泉監督をはじめとした黒澤組の映画愛が感じられる作品でした。