『蟹工船』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

『蟹工船』


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【出演】
松田龍平、西島秀俊、高良健吾、新井浩文、柄本時生、木下隆行、木本武宏、三浦誠己、竹財輝之助、利重剛、山本浩司、手塚とおる、皆川猿時、矢島健一、中村靖日、谷村美月、奥貫薫、滝沢涼子、内田春菊、でんでん、菅田俊、大杉漣、森本レオ


【監督】
SABU




“このセカイを突き破れ!”


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カムチャッカの沖で蟹を獲り、それを缶詰に加工する蟹工船‘博光丸’。

そこは、様々な出稼ぎ労働者を安い賃金で酷使し、高価な蟹の缶詰を生産する海上の閉鎖空間であり、彼らは自分達の労働の結果、高価な製品を生み出しているにも関わらず、蟹工船の持ち主である大会社の資本家達に不当に搾取されていた。


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情け知らずの監督者である浅川は労働者たちを人間扱いせず、彼らは劣悪な環境の中で少しでも手を抜くと懲罰という名の暴力や虐待に晒され、過労と病気で次々と倒れてゆく。

「これは戦争と同じだ!日本帝国のために死ぬ覚悟で働け!」


それでも仕方がないと諦める者、現状に慣らされた者……。


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労働者たちは仲間のひとり・新庄の言葉に従って集団首吊り自殺をしようとするも、結局は死ぬことすらできなかった。


そんなある日、新庄と塩田は漁の最中に博光丸とはぐれてしまう。

そして冬の海で寒さに凍える彼らを助けたのは、ロシアの船だった。


やがて博光丸に戻ってきた二人のもと団結した労働者たちは、人間的な待遇を求めてストライキに踏み切るが……。

「固定観念を捨てろ!現状をぶち破るんだ!弱気になるな!俺たちは前進するんだ!生きるんだ!そして未来を勝ち取ろう!行くぞ!」


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プロレタリア文学の金字塔である小林多喜二の小説に息づく思想を生かしつつ、時代の変化に即した‘現代の蟹工船’を描いた人間ドラマ。


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過酷すぎる条件で働く労働者たちが立ち上がるまでの軌跡が綴られていきます。

ひたすらこき使われるだけで、それを運命だと信じ込んでいる労働者たち。

監督の浅川による容赦ない暴力、利益を上げるために寝る間もなく働かされる。

そして同僚の死をきっかけに「このままでは殺される」と悩み苦しむが、反抗することすらできない。

その中で、新庄が立ち上がる決意を固めるのだ。

「この船を用意したのは金持ちだ。が、この船が莫大な利益を上げる。じゃあ、その利益はどうして生み出される?確かに蟹はこの下に何億匹といるだろう。しかし、俺たちが働かなければ一匹の蟹も手に入れることはできない。奴らには一銭も入らない。金持ちも俺たちも平等なんだ。俺たちも歯車なら奴らも歯車だ」


こうして新庄をリーダーに彼らは、団結の鉢巻きを締め、団旗を手にストライキを敢行!

浅川は一旦は要求を認め……歓喜する労働者たちだったが……そこになんと海軍が干渉してきてストライキは失敗に。

「責任者は誰だ!?」

新庄は射殺され、再び苛酷な労働が始まる。

そして、彼らは気付く。
「責任者なんて決めなければいいんだ。俺たちひとりひとりが責任者だ」

ひとり、またひとりと職場放棄をする労働者たちの姿で物語の幕は閉じる……この言葉とともに。

「よし、もう一度だ!」 



船内で蟹を茹でて解体し、選別し缶に入れて密閉し、箱詰めするまでの工程が、何度も登場する。

巨大な歯車の組み合わせを工員が身体の力を振り絞って動かす。
人が機械工場の歯車であることを象徴するシーンです。

また、廃棄箱に捨てられる蟹の残骸が、次々と人を使い捨てにする資本主義の現状も象徴している。



原作の構造は残しながらも、大胆な現代的アレンジを施し、まるでSF世界のような蟹工船内のセットとソリッドな映像が見事にマッチしている。

息苦しさが漂う狭い船内が舞台の作品ながら、SABU監督お得意の‘走るシーン’も盛り込まれています。



松田龍平は労働者の先頭に立つ男の新庄を序盤は飄々と、終盤には熱い想いをたぎらせる演技で表現。
静から動への変貌が見事!
目だけで全てを表現する演技は『野獣死すべし』での松田優作の狂気じみた目の演技と重なるものが!?


それに対する非道の監督、浅川役の西島秀俊の超憎たらしい演技も見応え満点。



冒頭で労働者たちが貧乏自慢(?)をするシーンが可笑しい。

ひとりが「雨漏りがする家に住んでいる」と嘆くと、
「そんなのは、まだましだ。俺ん家はな、家の中で傘を差している」

するともうひとりが「そんなのまだまだましだよ。家はな、家の中を犬や人までが通る」

ほとんど家の体をなしていない(笑)。


それから「来世では金持ちの家に生まれたいなあ」と妄想するユニークなシーンを(なぜかみんなでバレーボールをしているあせる)挿入するなど、シリアスな展開の中に、ホッと一息つけるコミカルな描写を挟み込むあたりが、いかにもSABU監督らしい演出。