
【出演】
高瀬アラタ、須田邦祐、竹谷佳織、渋谷拓生、川上多恵子、眞島秀和、田中要次、姫島のひとびと
【監督・脚本】
けんもち聡
“ありのままの自分ですけど、よろしくお願いします”
売れないダメ役者、加藤幸。

バイトをしながら演劇研究所でレッスンに励む彼は、伸び盛りの若手を尻目になかなか自分の‘個性’を見出すことができないでいた。
「小手先だけの芝居すんなよ!ダメ役者ならダメ人間を自分をさらけ出して演ってみろよ!」
「…………」
幸の夢は、自分の‘個性’を見つけることだ。
そんなある日、マネージャーの命令で、田舎の浪人生・吉田邦にボランティアで演技トレーニングを教えに行くハメになる。
九州の小さな離島・姫島に暮らす邦は、死んだ母に代わって一人で民宿の切り盛りもする勤労受験生。

この島は老若男女、みんな相撲が大好きで、邦もそんな島民の一人なのだが、性格ばかりは滅法シャイ。
演技科志望の動機を恥ずかしそうにつぶやく邦に、幸はすっかり困惑気味だ。
「どうしても役者をやろうと思ったの?」
「竹中直人さんが役者になって引込思案が直ったと聞いて……それで竹中さんみたいになりたくて……『シコふんじゃった』のゲリの演技なんか最高でした」
その夜、季節外れの水着撮影にこの島を訪れたモデル稼業の渋谷成美が、民宿へふらっと泊まりにやってきた。
翌日から演技トレーニングが始まった……が、初めてだらけに戸惑う邦に、幸はまったく容赦なし。
幸にとって演技は闘い!
「やる気あんのかよ!ついてこれないヤツは負けだ」
一方、成美も予想外の出来事で撮影がうまくいかなくなっていた。
思わぬ島民の反応にイラつくカメラマン……その間に挟まれた成美は、どうしていいか分からなくなる。
分からないのは邦も同じ。
一向にラチが明かない邦にイライラが募っていく幸だったが、実直な邦から思わぬ抵抗が返ってきた時、幸の思いが微妙に揺れ始めていき……。
‘念ずれば、花ひらく’

福岡県の小さな島を舞台に、夢を追う若者たちと島の人々の交流を綴るハートフルストーリー。
島民みんなが相撲好きというのどかな姫島には、都会の人間が忘れてしまった豊かさが広がっている。
大人たちも子供たちも、原っぱで校庭で、当たり前のように相撲をとっている。
そんなノンビリした島にやって来た(博多までの新幹線代を節約するため、東京から原付きで!)うだつの上がらないダメ役者の幸。
そんな彼を迎えるのが、竹中直人を尊敬し(壁にはポスターまで貼っている)引込思案の性格を克服したいと役者を目指す邦。
母は亡く、父は遠洋漁業で長期不在。たった一人で民宿を切り盛りする真面目な青年だ。
そして裏主役的存在なのが、二流雑誌の撮影で島を訪れていたモデルの成美。
この三人を軸に、ホンワカ、マッタリ、ユル~い展開で物語は進んでいく。
何もない島だけれど、素朴すぎるくらい素朴な島民たちと触れ合い、純朴な邦に演技レッスンを重ねるうちに、都会での慌ただしい毎日で忘れかけていたものに気づく幸。
「役者は争いなんだよ!勝ち抜かなきゃダメなんだよ!」
という幸に、邦夫はこう答える。
「いやです。争いはせんです。争いは嫌いです」
「お前らが好きな相撲も争いだろ?」
「あれはスキンシップです。この島のもんはみんな家族みたいなものですけん、争いはしません」
自分を見失いかけていた成美も島のひとびとの優しさに接し、もう一度夢に向かって歩き出す決意を固めるのです。
この成美を優しく労る漁船のオジサンがいい味を出している!
寒空の中、ビキニ姿で撮影中の成美にそっとコートをかけて上げ、
「寒いからこれかけときんしゃい」
「でも撮影中……」
「そんなのいいからかけんしゃい。これかけとけば少しは違うき。いいから、いいから、な!」
このシーンは秀逸です!
地味~~な内容だけれど、超癒される温か~~い作品でした。