『大鹿村騒動記』 | エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

エルドラド 「時をかける言魂」 『時かけ』と仲里依紗に魅せられて

ただの戯れ言?!またはエッセイのようなもの。
そしてボクは時をかける。

某シネコンにて『大鹿村騒動記』を鑑賞。


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【出演】
原田芳雄、大楠道代、岸部一徳、佐藤浩市、松たか子、冨浦智嗣、瑛太、石橋蓮司、小倉一郎、でんでん、加藤虎ノ介、小野武彦、三國連太郎


【監督】
阪本順治




“娯楽の原点ここにあり。涙も忘れて心が躍る、小さな村のハレ舞台”




雄大な南アルプスの麓にある長野県大鹿村。

そこで鹿料理店‘デッドイーター’を営む初老の男・風祭善。


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彼は300年以上もの歴史をもつ村歌舞伎の花形役者だ。
ひとたび舞台に立てば、見物人の声援を一身に浴びる存在。


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だが……実生活では女房に逃げられ、哀れ独り身をかこっていた。


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そんな善の店にバイト志望の青年・大地雷音がふらりと現れ……住み込みで雇うこととなるが……雷音は名前だけは勇ましいもののナヨナヨッとした女性的男子であった。


ある日、歌舞伎公演を5日後に控えた折も折、18年前に駆け落ちした妻の貴子と幼なじみの治が帰ってきて、善の前に姿を見せる。


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「善ちゃん、貴子ちゃん返すよ」
「返す!?」
「貴子ちゃん、記憶がなくなっちゃったんだ。俺と善さんの区別もつかないし。だから返す」
「…………」


脳の疾患で記憶をなくしつつある貴子をいきなり返され、途方に暮れる善。

強がりながらも心は千々に乱れ、遂には芝居を投げ出してしまう。

「俺、歌舞伎やめた!出ない!」
「おいおい!善さんが出ないと成り立たないよ……主役なんだから!」


仲間や村人たちが固唾を呑んで見守るなか、刻々と近づく公演日。

そこに大型台風まで加わって……。


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果たして、300年の伝統は途切れてしまうのか?

小さな村を巻き込んだ大騒動の行方やいかに!?


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美しき日本の山村で‘芸能の原点’を守ってきた人たちのホロ苦くもオカシミあふれる群像劇。


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いい歳をした三人による奇妙な三角関係、伝統の村歌舞伎、善の周辺で起こる男女(&男同士?)の恋愛、老人と中年と若者の三つの世代による話、村を揺るがすリニア新幹線問題……など、いくつものドラマが重なってのドタバタ騒動が時にコミカルに、時に切なく綴られていきます。


生前、原田芳雄はこの作品を称して「これは濃縮ジュースみたいな映画ですよ」とのコメントを遺していましたが、正に言い得て妙!

イロイロな要素がテンコ盛りの魅力ある内容となっています。


年に一度の歌舞伎は何もない村にとっては一大ビッグイベント!

しかし稽古の最中にも、リニア新幹線の駅建設賛成派と反対派に分かれ喧々囂々。

散々揉めた後、ひとりのおっちゃんが身も蓋も無い一言を。

「でもよ、開通するのは2045年だろ。みんな死んでるよ!」



クライマックスである歌舞伎のシーンは見応えがありましたが、その後のラストまでのシークエンスも最高です。


東京に行ったまま疎遠になってしまった彼氏に会い行くためにバスに乗る美江。

すると……密かに美江に恋焦がれているバスの運転手の一平は、歌舞伎口調で……
「好きだぁぁぁ~!」

美江が呆気に取られる中、なんと一平はバスを前進……ではなくバックさせてしまう!

どうしても美江を東京の彼氏のところに行かせたくない一平の痛快なプロポーズに大拍手!


そして……場面は変わり、橋の上に佇む善と治。

そこに満面の笑みを浮かべながら走ってくる貴子。
「善さーん!」

手には善の大好物のイカの塩辛の瓶。

そのまま善に抱き着くのかと思いきや……素通りして治に抱き着き、
「善さん!善さん!」
「俺は治だよ!善さんはあっち!」

逃げる治を追いかけていく貴子。

ひとり残された善は、ポツリと、
「……あれ?」

善を演じる原田芳雄のアップで物語の幕は閉じ、ここでエンディング曲・忌野清志郎の「太陽の当たる場所」が流れる!

原田芳雄ファンなら間違いなく号泣ものです!


それから冒頭でのシーン。
歌舞伎の稽古中に善の前に現れる貴子と治。
瞬間、善は咄嗟に舞台の幕を引いてしまう。

駆け落ちした二人の姿なぞ見たくもない。
ところが、もう一回幕を開け、善は二人と向き合うことを決意。
芝居は幕を引けば終わるが、人生の幕は下りない……人生の舞台は続いていくのだ……ということを見事に表現していました。


悲喜こもごもの結末を温かく包み込む……ままならぬ事情を抱えた人生と、浮き世の憂さも吹き飛ぶハレ舞台。
絢爛たる舞台の向こうに見えてくる軽妙な人間模様。
これぞオトナの喜劇!



自ら企画を持ち込んだという原田芳雄が好演。
テンガロンハットにサングラス姿もカッコよく、善役を生き生きと演じています。
(これが遺作になってしまったのが本当に惜しい)


そして豪華俳優陣が、遊び心たっぷりに脇を固めているところもよい。

原田芳雄とは『ツィゴネルワイゼン』以来の共演となる貴子役の大楠道代。
彼女がラストに見せる少女のような笑顔は秀逸。

いい加減な男だけれど、どこか憎めない治役の岸部一徳の飄々とした演技も素晴らしい。


その他、役場職員で村内アナウンスの声が魅力的な松たか子、誠実なバスの運転手の佐藤浩市(50歳ながら純情な青年の雰囲気を見事に醸し出す)、村の重鎮で貴子の父親でもある三國連太郎(ちなみに佐藤浩市との直接的な絡みはない)、雷音に惚れられるが満更でもない様子で(?)歌舞伎をこよなく愛する郵便局員の瑛太、原田芳雄の長年の盟友・石橋蓮司に小野武彦……等など、凄いメンツが集結!



この作品はわずか2週間で撮り上げたらしいですが、クオリティーは高い。
往年のプログラムピクチャー的雰囲気が漂う愛すべき小品と言えるでしょう。



原田芳雄の最期の演技を堪能されたし!