
【出演】
堤真一、永瀬正敏、原田知世、阿部寛、荒川良々、宮迫博之、堀部圭亮、田中麗奈、清水美砂、篠原涼子、松尾スズキ、恵俊彰、すまけい、いしだあゆみ、寺島進、三輪ひとみ、原知佐子、マギー、堀内正美、鈴木砂羽、三谷昇、京極夏彦
【監督】
実相寺昭雄
“この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君”

昭和27の東京、夏。
事件は、小説家の関口巽が、古本屋の店主・京極堂こと中禅寺秋彦に投げかけた奇妙な質問で幕を開けた。
関口は、あらゆる知識を身につけた友人の京極堂を何かと頼りにしていた。

「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君」
京極堂は、関口の異常な質問に落ち着き払って答える。
雑誌の編集者である京極堂の妹・敦子が、生活のために雑文もこなす関口に取材を依頼した怪しげな噂とは……雑司ヶ谷の鬼子母神近くにある大病院・久遠寺医院の娘の梗子が妊娠20ヶ月を迎えたという話だった。
それだけではなく、梗子の夫が1年半前に医院の密室から忽然と消え、以来ずっと行方不明だという。
京極堂は失踪した夫が旧制高校の一級先輩の牧朗だと気付き、胸騒ぎを覚える。
そして、共通の友人である私立探偵の榎木津礼二郎に相談するよう促す。
神保町にある榎木津の探偵事務所に向かう関口の足は重かった。
凡人の理解を遥かに超えた彼の言動に、いつも振り回されていたからだ。
大財閥の御曹司である榎 木津は、他人の記憶が見えるという不思議な能力を持っていた。
榎木津の事務所でコトは急速に進展する。
梗子の姉・涼子が牧朗の行方を捜してほしいと依頼に来たのだ。
関口は、涼子の儚げな美しさにひと目で心を奪われ、彼女を助けたいと願う。
榎木津と関口は敦子を伴って、久遠寺医院を訪れる。
院長の嘉親と妻の菊乃、住み込みの助手の内藤、涼子に迎えられ……梗子が閉じこもっている書庫に案内される。
扉が開いた瞬間、榎木津は、
「薄気味の悪い……まるで……」
と言ったきり、こらえきれずに床に崩折れる。
中に踏み込んだ関口が見たものは!?
その頃、榎木津の幼馴染で、戦時中は軍隊で関口の部下だった刑事・木場修太郎もまた、久遠寺医院の怪に関わっていた。
元看護婦・戸田澄江の謎の死を追っていた彼は、新生児が連続して消えていたことを知る。
医院側は死産だと主張したが、父親の一人が久遠寺の娘が赤ん坊をさらって殺したと澄江から聞き出していた。
さらに木場は、久遠寺家は他人に死んだ子供を憑かせて呪い殺す‘オショボ憑きの筋’ だという証言を得る。
20ヵ月の妊娠、密室からの失踪、新生児連続誘拐、憑物筋の呪い。
調べれば調べるほど、新たな謎が出現。
しかも捜査する側の関口が、昔から涼子を知っていて、この事件の当事者の一人であるという不可解な感覚に襲われる。

「京極堂、頼む。久遠寺家の呪いを解いてくれ!」
京極堂のもう一つの顔、それは ‘憑物落とし’。
久遠寺医院に降り立った 京極堂は、涼子に告げる。
「この館に巣食っている妖怪、姑獲鳥を退治しに参りました」

出産で死んだ女の無念から生まれるという妖怪、姑獲鳥の呪いだというのか?
驚愕の結末が到来を告げようとしていた……。

由緒正しき産婦人科医院を揺るがす怪事件の顛末を描くミステリー。
敗戦直後の日本のあやしげな雰囲気、事件に見え隠れするまがまがしさなど、独特な世界観が繰り広げられる。
古本屋の店主、陰陽師・安倍晴明ゆかりの神社の神主、そして憑物落としの3つの顔を持つ京極堂を中心に、他人の記憶が見えてしまう豪気な私立探偵・榎木津、自信に満ちあふれたこの二人とは対照的に、内向的でオドオドした関口。
このトリオが摩訶不思議な事件に取り組み、真実が明らかになるまでが描かれます。
京極夏彦の「京極堂シリーズ」の600ページにもおよぶ原作を2時間に収めるのは多少の無理も感じましたが、それでも簡潔にまとめあげた実相寺監督の構成力はさすが。
斜めからの不安定なアングル、照明を極端に排除して逆光を浴びる登場人物、ワイドレンズを使っての画面が歪むほどの接写といった特異なカットを多用するなど、実相寺監督お得意の演出は健在です。
登場人物たちの個性的で魅力溢れるキャラクター、大胆不敵なトリックと最後に待ち受ける度肝を抜く真相……と一瞬たりとも目が離せない!