
【出演】
三上祐一、紅林茂、松永敏行、工藤夕貴、大西結花、会沢朋子、佐藤充、寺田農、小林かおり、きたむらあきこ、鶴見辰吾 、尾美としのり、佐藤浩市、三浦友和
【監督】
相米慎二
‘台風こないかなぁ……’

東京近郊のとある地方都市。
木曜日の夜、中学校のプールに……泰子、由美、みどり、理恵、美智子の5人の女の子が泳ぎに来る。
一見、普通の中学生のように振舞ってはいるが、心の奥底では「何か」が起こることを期待しているようだ。
そんな彼女たちは、先に来て泳いでいた明に気付き、遊び半分でからかっていたところ……度が過ぎて溺死寸前にまで追い込んでしまう!
そして、偶然に出会った同級生の恭一と健に助けを求める。
二人とも野球部員で、ランニングの途中だった。
横たわる明を見て、
「どうしたんだよ、これ!?死んでるのか?」
「死んではいないと思う」
「人工呼吸やってみっか」
「やっちゃって、やっちゃって、何でもやっちゃって!」
明は息を吹き返すが……そこに連絡を受けた担任教師の梅宮が慌てて駆けつけて来て、生徒たちのいたずらを諭す。
「何だよ、連絡してきたのはお前らかよ!慌てて来て損した。勝手に忍び込んでバカなことしてるんじゃないよ、ったく!」
その翌日の金曜日、恭一は登校の途中で理恵に昨夜のことを詰問するが、彼女はニュースが告げていた台風のことを話すだけだった。

授業中、梅宮の恋人・順子の母親と叔父がいきなり教室に入って来て、
「いつになったら順子と結婚するんだ!あんたが順子に大金を貢がせたんでしょ!」
と罵倒。
「困りますよ、出て行って下さい」
「あんたらもね、こんな教師に教わってるから、ろくな子供にならないのよ!」
「うっせー、ババア!」
授業は中断し、教室中は大混乱に。
そんな騒ぎをよそに理恵は、
「あぁあ~~台風こないかなぁ……」
その夜、帰省中の大学生兄と哲学っぽい問答をした恭一は、夜のランニングに健を誘いに行くと……健は明と一緒に家の裏にいた。
三人は煙草を吹かしながら、クラスの女の子の話に興じ始める。
明が目撃した泰子と由美の変な関係。二人がキスをしている場面を見てしまったと語る。
「あの二人、レズかよ!?」
「誰かに喋ったら殺すって脅された。俺、殺されちゃうかな?」
健の好きな美智子のこと。彼は以前にイタズラをして美智子の背中に火傷をさせたことがあった。
そして恭一を好きな理恵のこと。
「何で三上ばっかりモテるんだよ?不公平だよ」
「知らないよ……」
「お前は誰か好きな人、いないの?」
「う~~ん……河合奈保子」
「あのデブー!」
そんな他愛もない話で盛り上がる三人だった。
刻一刻と台風が近付いて来る土曜日の朝。
いつものように恭一は団地の前で理恵と待ち合わせるが、何故か来ない。
一方の理恵は寝坊して学校の始業時刻に間に合わないことを知ると、制服のままフラリと東京へ行ってしまう。
授業開始直前、美智子は梅宮に昨日の一件の説明を強く求める。
「ちゃんと説明してください!納得がいきません!」
「後できちんと話すから」
そしてそれが原因で教室中が一波乱になり収拾がつかない事態に!
「お前ら、いい加減にしろ!」
そして放課後。
「台風がやってくるので早く帰宅するように」との校内放送があるも……優等生で潔癖症の美智子は、梅宮から昨日の事件の真相を聞くまでは帰ろうとしなかった。
その頃、「理恵が家出した」という知らせを受けた梅宮は、恭一から「朝、理恵を迎えに行ったけど、出てこなかった」という言質を取ると、理恵の家族に、
「学校は無関係です」
何とも無責任な台詞を残し、学校の入口を施錠してさっさと帰宅してしまう。
それから……激しい風雨の中、校内に残った生徒たちの思わぬドラマが幕を開ける!
以前から慕っていた美智子を執抑に追いかける健。
彼女を追いつめた健は、いきなりブラウスを引き裂く……と、突然、我に返り号泣。
美智子の背中の火傷の跡を見てしまったから……。
そこに物音を聞きつけた恭一が駆けつけ、更に演劇部の部室で‘じゃれあっていて’帰る機会を逸してしまった泰子、由美、みどりも合流。

一方、その時間に理恵は……ナンパされた大学生・小林のアパートについていってしまう。
が、彼女は素直に恭一への想い、台風を待っていたことを話すと……突然、
「やっぱり……わたし、帰ります!」
「え?泊まってくんじゃないのかよ?」
「みんな心配してると思うし帰ります。声をかけていただき、ありがとうございました!」
と風雨の外に飛び出すのだった。
しかし、電車は台風のため動いておらず、途方に暮れる理恵。
台風が頭上を通過する時刻。
三上は梅宮に電話をする。
「鍵がかかっていて、学校に取り残されたままで家に帰れないんですけど」
「そんなの知らないよ、俺は」
「酔ってるんですか?」
「ああ、酔ってるよ。いいか、俺はいま32だ。お前らもな、あと15年もしたら、俺みたいな大人になるんだよ。お前らの人生もあと15年だ」
「僕は、先生みたいな大人にはならない!」
夜の教室に残った彼らは、カセットから流れる音楽に合わせて服を脱いで踊り始め、乱痴気騒ぎ!
遂には台風の中、校庭に出て踊り狂う!

騒ぎ疲れて、みんなが教室で寝静まる中……恭一は、人間が生きる意味について考えていた。
明くる日曜日の朝……突然、恭一が窓際に立ち、
「お前らは人が死ぬところを見たことがあるか!?今から見せてやる!」
と言うや、みんなの前で窓から飛び下りる!
驚いて恭一が墜落したグラウンドに走りよる5人。
そこには恭一が……。
台風が過ぎ去った快晴の月曜日の朝。
学校に向かって晴れ晴れとした顔の理恵。
そこに明が。
「明、おはよう!」
「何してんの?今日、学校休みになったんだよ」
「え、そうなの?じゃあ、明は何で学校に?」
「プールで泳ごうかと思って」
「そっかぁ、私も一緒に行く!みんなもいるかなぁ?」
台風が過ぎた今……彼らはまた普通の中学生に戻っていた。
台風の接近とともに……突然、狂気に襲われた中学三年生たちの四日間を描く青春群像劇。
先日放送された『仲里依紗の女子アルバム』にゲスト出演していた行定勲監督が大絶賛していたこの作品。
かなり前にテレビで観た記憶があるものの、内容をほとんど忘れてしまっていたので今回改めて観直してみました。
中学生頃の少年少女たちが、いかに精神的に不安定で危なっかしいか。
思春期というものの得体の知れない部分を見事に描写されている。
振り返ってみれば、子供時代は‘台風’‘雪’‘地震’等の‘自然’は、一大イベントでした。
授業中に雪が降ってくると異常にテンションが上がって大騒ぎになったり、台風の前夜はどういうワケかドキドキワクワクしたりとか。
そんな子供時代を思い起こさせてくれて……そして彼らが異常な程の乱痴気騒ぎをするのも納得できるような……。
相米監督お得意の‘ワンカット長回し’を多用した演出は独特の緊張感を醸し出し、物語の中にグイグイ引き付けられてしまいます。
若き日の理想を失った無責任な大人の典型のような数学教師役の三浦友和が好演。
数年前の某映画雑誌のインタビューで「この作品がキッカケで、それまでの‘好青年の二枚目’という固まったイメージから脱却することが出来た」と語っていたのが印象的。
それからバービーボーイズの「暗闇でダンス」「飛んでみせろ!」が、効果的に使われているのにも注目を!
