
新聞を見て、
あかり「やっぱり74年の2月だ~~」
とガックリ。

涼太「で、君、名前は?」
あかり「あ、芳山あかり」
涼太「家は?」
あかり「……」
涼太「それ食べたら帰りなよ。ウチの人、心配してんじゃない?(小声で)家出なんでしょ?」
あかり「……」
涼太「……?」
あかり「……あのぉ……」
涼太「ん?」
あかり「……」
涼太「……?」
あかり「……わたし……2010年から来たの!」
涼太「え……?」
あかり「未来から来たの!ある人に会うために」
涼太「打ち所悪かった?」
あかり「ホンートなんだってば!だって、実際、空から降って来たでしょ!ね!」
涼太「そりゃあ、わかってるんだけど……」
あかり「じゃ!証明するモノ!えぇと……(バッグの中を引っ掻き回し)……」
バッグからミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、涼太の前にドン!
涼太「???」
あかり「えと……あ、財布!……500円玉でしょ!あと……(ケータイに気付き)はっーーーー!」
涼太「(500円玉をシゲシゲと見て)ひら……せい19年?」
ケータイを差し出し、
あかり「これが2010年の技術よ!」

涼太「小型ラジオ?」
あかり「(ガクッ)ケータイ!」
涼太「携帯?」
あかり「(じれったげに)あ~~っと、主にこう……電話なんだけど……(ケータイを振って)あ~そっかぁ、さすがに圏外か。だよな……」
涼太「???」
あかり「あっと、他に……はっ!(ケータイを操作し)写真も撮れるの!凄くない?」
画面にはピースサインで微笑むあかりと友人の画像。
涼太、ケータイを奪い取り大興奮して、
涼太「これって複合型通信機器装置!」
あかり「え?」
涼太「いま撮ってるSF8ミリ映画の小道具と同じだ!これひとつでどんな場所に行っても通信できるし、記録も残せるし……」
あかり「……(ワケが分からないが、当たってはいるのでとりあえず頷く)」

涼太「俺の書いた未来がここに」
あかり「あ?……結構、イケた?」
涼太「……(感動している)」
あかり「あ、じゃ、ほら信じてくれる?SFオタクなんでしょ?」
涼太「お宅?」
あかり「オタク」
ずっと涼太の後をついて行くあかり。

あかり「ね、お願い、涼太!ウチに泊めて!」
涼太「涼太って!無理だよ!」
あかり「あぁ、わたし、掃除も洗濯も……ん~料理もするから、なにも迷惑かけないから!お願い!泊めて!」
涼太、無視して。
あかり「あ、ちょっと待って!」
涼太「……?」
あかり「それにわたし、何としてでも深町一夫にメッセージを伝えて、直ぐにでもお母さんの元に戻んなきゃいけないの。彼に会えたら、メッセージを伝えられたら、お母さん……もう一度目を覚ましてくれるかもしれない。だからお願いします……一緒に探して下さい!」

涼太「……」
涼太の後をトボトボとついて行くあかり。

「悪いけど……」
涼太はあかりを残してアパートの階段を上がり玄関へと向かう。
あかり、どうしていいか分からず、その場から動けない。
諦めて、スゴスゴと来た道を戻りかける……が、気配に気付き立ち止まると……。

涼太、階段を降りて引き返してきて、「……上がれよ……」
あかり、嬉しさを噛み殺し、気まずそうな顔で頷く。
アパートの中に入ると、あかりに興味津々の涼太の友人カップル、門井徹と市瀬ナツコが目ざとく近寄ってきて。

門井「(ニヤニヤして)ほら、やっぱり」
涼太「……なに?ふたりして」
門井「なに~じゃないだろ」
あかり「(オズオズと)どうも……」
ナツコ「どうも~」
門井「ベッピンさんじゃん。涼太はこういうコが好みだったんだね?」
涼太「違うよ」
あかり「あ、いや、イトコのあかりです」
と、涼太に目配せ。
涼太「あ、そ!イトコのあかり!受験で田舎から来てるんだ」
門井「そいつはラッキー!いま彼とかいるの?」
ムッとしたナツコ、門井のボディーにおもいっきりパンチ!
門井「ぐっ!」
ナツコ「こいつは門井、私はナツコ。こいつと一緒に涼太の映画に出てるの!向かいに住んでるからさ、何かあったらいいなよ」
あかり「はあ……」
ナツコ「あ!」
あかり「……?(ナツコ?)」
チラシを手渡し、
ナツコ「これ、よかったら観に来て!」
あかり「はい」
ナツコ「じゃ!」
慌ただしく部屋に戻っていく門井とナツコ。
シュールなイラストが描かれたアングラ芝居のチラシ。
あかり「!?……ナツコ?……ナツ………はっ!もしかして」
やおらバッグから雑誌を取り出してページを捲り、
あかり「えっと……あった!市瀬ナツコ」
そのページには中年のナツコの写真が掲載されている。
涼太「……!?」
あかり「逆らったら末代まで祟りそうなタレント、5年連続ナンバー1!市瀬ナツコ……あれ」
涼太「……!?」
タバコをスパスパと吹かしながら、珍しそうに2010年の雑誌を読む涼太。
あかり「いまは高校生かぁ。あ!学校の名前、聞いてくればよかったなぁ」
涼太「な?」
あかり「ん?」
涼太「俺どうなってる?溝呂木涼太って映画監督は有名?」
あかり「映画?」
涼太「うん」
あかり「……いや、わたし映画観ないから、あんまわかんないよ」
涼太「そ……家の住所は?」
あかり「わかんない」
涼太「(頷き)……赤い手ぬぐいマフラーにして~♪」
あかり「なに?それ」
涼太「ん?『神田川』……横丁の風呂屋~♪」
あかり「あ~お風呂入りたぁい」
涼太「ないよ」
あかり「えっ!?……ないの!?じゃ、じゃあ、そこの横丁のお風呂屋さん行こうよ」
涼太「ダーメ。銭湯の日は明後日」
あかり「えっ!?ちょっ、毎日入ってないの?」
涼太「毎日なんて勿体ないよ。それに冬だし」
あかり「いや?季節の問題?」
涼太「廊下の流しで充分」
あかり「……なが?……えっ!廊下の!?」
涼太「……(軽く頷き)」
あかり「……もういい……」