Mountainscapes/Barre Phillips | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

 Barre Phillipsは昨年12月28日にNew Mexico州のLas Crucesで90歳の人生の幕を閉じた。それにしても、このEuropean Improvisation Centerを設立した偉大なるContrabassの巨人は、未来へと繋がっていく自由に時間と空間を行き来する静謐にして豊穣な音世界半世紀以上も前から世に出していたのだ。それは、ありとあらゆるFormatで、Solo(多重録音Soloを含む)であろうとDuoであろうと、ComboであろうとOrchestraとの共演であろうと、常に一貫して響きやEnsembleを冷静に俯瞰し、時間と空間の中で生み出されていく音世界を自由に操っているように感じられる。それはFree Jazzとか、Improvisationといった言葉が、もはや意味を持たなくなるような、ジャンルや主張といったものとは縁遠い、孤高の自己探求と創造意欲に満ちた旅の物語がずっと続いてきたようなものを感じさせる。また、それは自己鍛錬を続けてきた圧倒的な演奏技術を持っていたからこそ続けられてきた物語なのだ。BarreはCalifornia州San Franciscoに生まれ、Classical Musicを学びSan Francisco SymphonyのAssistant Principal BassistであるS. Charles Sianiに短期間師事した。50年代末に出会ったOrnette Colemanの影響で62年にNYに移り、SpainでPablo CasalsのWorkshopに参加して米国に戻るとNew York Philharmonic出身でCharles Mingusを教えたFrederick Zimmermannにも学んだ。Gunther Schullerを通じてEric Dolphyに出会い、Don Ellisに影響を受け作曲するようになると、Archie SheppGeorge RussellJimmy Giuffreらと共演したBarreは67年に渡欧し、思いつきから始まり教会で68年に録音された最初のFree Solo BassのアルバムJournal Violone』が翌年リリースされている。そしてBerlinのJazz Clubで演奏するBassistのManfred Eicherと出会うのであった。Dave HollandとThe Trioの『Conflagration』を録音中にEicherと再会してECMからHollandとの『Music From Two Basses』がリリースされたのは71年の事であった。

 

 『Mountainscapes』はBarre PhillipsECMから76年にリリースしたアルバム。BarreとドラムスとSynthesizerのStu MartinとSoprano/Baritone Sax、Bass ClarinetとSynthesizerを演奏するJohn SurmanというThe TroのメンツにDieter FeichtnerのSynthesizer、1曲のみギターのJohn Abercrombieが参加している。

アルバムは神妙なBarre PhillipsArco独奏から始まる“Mountainscape I”で幕を開ける。BarreとStu Martinによるスリリングなリズム隊にDieter Feichtnerが弾く妖しげなSynthesizerをバックにJohn SurmanのSaxが暴れまくる。

Syntheをバックにした多重録音された幽玄なJohn SurmanのSaxが印象的な“Mountainscape II”は3分足らずで終わってしまう。もっと聴きたいが、このバランスがBarreらしい。

Mountainscape III”はSynthesizerをバックに呻き、静かに叫ぶようなBarreのArcoが神秘的な世界を描き出している。

Mountainscape IV”はSurmanのSaxがゆったりとした中にどこか哀感を感じさせる欧州的な旋律を吹く中、Barreのベースがドッシリ支える。

SpacyでMinimalなSynthesizerが鳴り響く中、Barreのベースが蠢き、SurmanのSaxが炸裂する“Mountainscape V”。

Mountainscape VI”はFeichtnerが弾く妖しげなSynthesizer浮遊感に満ちながら、BarreのArcoと夢の中を歩いていくような謎めいた音世界を描き出していく。

SequencialなSynthesizerBass Clarinetの牧歌的な音と鮮やかなContrastを成す“Mountainscape VII”。

アルバム最後をシメるのはBarreのFreeなソロで始まり青白い炎を燃やすリズム隊をバックにJohn Abercrombieが弾き倒すMountainscape VIII”.。

(Hit-C Fiore)