Miltons/Milton Nascimento | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

 Milton Nascimentoの音楽はずっと聴き続けているのだけれど、個人的な好みから言わせてもらえば、圧倒的に初期から70年代にかけての作品がツボであった。それらの傑作群に比べてしまうと、自分にとってMiltonの80年代の作品は、どちらかといえば、積極的に手が伸びることがない縁遠い存在であったのは事実である。Clube da Esquina街角クラブ)という理想的なMinasの音楽仲間たちとやっていた頃、Som Imaginárioという創造性の高いバンドがバックで演奏していた頃のMilton、あるいはデビュー当時のMiltonは,唯一無比の圧倒的に素晴らしい名作を世に出していたわけで、それらと比べるのが土台無理があるのである。そうはいっても、さすがはMiltonで、この時代でもサウンド的な部分を抜きにすれば、Miltonらしい魅力的な楽曲を聴かせてくれてはいるのである。大好きなPat MethenyやTavinho Moura、超絶BassistのNico Assumpçãoが参加しWagner Tisoが鍵盤を担当した85年にリリースされた『Encontros E Despedidas』を最初に聴いた時に、ドラムスの音が出た瞬間に思わずガッカリして、その80年代的なSquareなSound Productionと温もりのある人間味を感じさせるMitonのVocalとの食い合わせに馴染めなかったのが、後々尾を引いてしまったのか、この時期のMiltonに近づけなかった理由である。確かに楽曲についても、これまでの自由で軽やかに飛翔していくような躍動感が居心地悪そうに少々型にはまってしまっている感も、この頃には感じていた。しかし、80年代末にリリースされた本作は、Naná VasconcelosPercussionが加わることによってMiltonらしい伸びやかなVocalSimpleで生命感を感じさせるサウンドの中で息を吹き返した傑作に仕上がっている。2曲でRobertinho Silvaがドラムスを叩いているのも良い。

 

 『Miltons』はMilton Nascimento89年にリリースしたアルバム。

アルバム1曲目は“River Phoenix (Carta A Um Jovem Ator)”。タイトル通り86年公開の映画Stand by Me』で一躍、世界中の注目を集めた俳優River Phoenixに捧げられたもの。MiltonらしいGentleな歌声温もりのあるMelodyが歌われていく。NanaのPercussionをバックにしたAcoustic Guitaの弾き語りでMelodyが引立っている。

Paulo Ricardoとの共作“Feito Nós”はHancockの冒頭のMinimalなピアノが面白い。MiltonのVocalもHancockのピアノと見事にかけ合って、自然の中を駈けぬけていくような自由で伸びやかな魅力が伝わってくる。

奇数拍子にのってMitonのScatが躍動する“La Bamba”。そう、あの“La Bamba”のCoverは原曲を思い起こせないほどにMiltonらしい仕上がりに驚かされてしまう。生命感にあふれるMiltonが戻ってきた子供たちのChorusもイイ感じ。

Fruta Boa”はHancockのピアノのみをバックにMiltonがしっとりと歌い上げていく。これは沁みますなあ。

Sêmen”もNanaのPercussionとMiltonの弾き語りによるAcousticで生命感に満ち溢れたナンバー神秘的なChorusも最高で、やっぱり、これっすなあ、Miltonは。

Elis Reginaの相方として知られる鍵盤奏者César Camargoとの共作“Don Quixote”はMiltonのFalsettoがたまらないJazzyな仕上がり。Hancockのピアノ・ソロも楽しめる。HancockのBass Synthesizerだけが80年代丸出しで厳しいのが残念。

72年リリースの名作『Clube Da Esquina』収録の“San Vicente”はMiltonとNanaのPercussionにHancockのアコピでイイ感じで仕上がって入るものの、Hancockのピアノ・ソロが弾きすぎ、頑張り過ぎでせっかくの曲の雰囲気を台無しにしてしまっているのが残念。

Novelli作曲Cacaso作詞の“Sem Fim”はNana Caymmiの79年作『Nana Caymmi』にされていた収録されていた名曲。ピアノをバックにしっとり聴かせてくれる

アルバム最後をシメるのは軽快な口笛で始まる“Bola De Meia, Bola De Gude”。NanaのPercussionにのってMiltonが躍動する。

(Hit-C Fiore)