
Rio de Janeiroで生まれ、全米デビューを飾って世界的に、その名を知られるようになったMilton Nascimento。だが、Miltonを語る時には、幼少時に移り住み、多感な時代を過ごしたBrail南東部に位置するMinas Geraisこそが、その音楽性を象徴する土地として必要不可欠だ。Clube da Esquina(街角クラブ)という理想的なMinasの音楽仲間たちの存在が、Miltonにとっても大きかっただけでなく、Minasの優れた才能を持ったMusicianたちが奏でる音楽に多くの人々が魅了されていったのが興味深い。勿論、自分もその一人である。Lô BorgesにWagner TisoやToninho Horta、Beto Guedes。そしてFlávio VenturiniにTavinho Moura。彼らの紡ぎだす浮遊感に溢れた魔法のようなMinasの音楽のトリコになったのはいうまでもない。他にも、Rio生まれながらMinas音楽の仲間入りを果たしたDanilo Caymmiや、数多くのMinasの仲間たちの音楽を貪り聴いたものだ。さて、彼らについてはまた別の機会に語るとして、まずはMilton。個人的にはClube da Esquinaは勿論、やはりWagner Tisoと組んでいた時代のMiltonに思い入れが強い。Miltonの声の魅力は言うまでもないが、AfricaやEuropeの音楽をはじめ、世界各地のさまざまな音楽が、Minasのフィルターを通して一番おいしくブレンドされたようなサウンドが素晴らしい。彼の地で育まれた時間と空間を超越した音楽。Africaから連れてこられた人々が伝えた音楽や、Europeから来た者や米国からやってきた人々が持ち込んだ音楽、それらが混じり合って芳醇な音楽が育まれていった。それは人種や性別や年齢の壁をも越えて人々を魅了する。Minasの、特にMiltonの音楽を聴くと、なぜか、懐かしい心穏やかな気持ちになるのだ。魂の故郷、なんて言葉も大仰ではない心が安らぐ自分にとってなくてはならない大切な音楽。
『Milton Nascimento』はEMI Odeonからの一作目。69年にリリースされた。Minasの石畳の坂道を歩く人々と街並みが描いたジャケットも大好きだし、このMinas独特の空気感が伝わってくるかのようなサウンドが素晴らしい。Wagner TizoやToninho Horta、Nelson AngeloといったMinasの仲間たちが参加して、Miltonのスケールの大きさが引き出された。4曲だけだが、Luiz Eçaのアレンジも素晴らしい。
アルバムの幕開けはLoとMarcioのBorges兄弟との共作“Sentinela”。雄大なStringsやHornアレンジがMiltonの魅力的な歌声の邪魔することなくMinasの自然や街並みが目の前に迫ってくるよう。メロディーの美しさだけでなく、転調も効果的で極上の出来ばえ。
イントロが印象的な“Rosa do Ventre”もまたMilton節ともいえるメロディーが堪能できる。Hortaのギターもイイ感じだ。
リズミカルに歌われるDorival Caymmiの“Pescaria (Canoeiro)/O Mar é Meu Chão”。
Wayne Shorterが『Native Dancer』で取り上げたMarcio Borgesとの共作“Tarde”。Stringsが夕闇に包まれていくMinasの街が目に浮かばせてくれる。名曲中の名曲。Luiz Eçaの奥行きのあるアレンジが最高だ。
B面は教会音楽の影響も感じさせる“Beco do Mota”で始まる。
MiltonのViolaoの弾き語りでスタートして、徐々に壮大なスケールを感じさせる“Pai Grande”。
Joyceの最初の夫だったNelson Angelaとの共作“Quatro Luas”。幻想的で大好きな曲。
GentleなMiltonの歌声がことさら沁みる“Sunset Marquis 333 Los Angeles”。
Percussionが面白い効果をあげているToninho Hortaとの共作“Aqui,Oh!”。Hortaの声も聴けるが、なんといっても美しいコード進行の曲を素晴らしいViolaoを弾いて魅了してくれる。Minas音楽らしい浮遊感がなんとも心地良いナンバーでアルバムは幕を閉じる。
(Hit-C Fiore)