Tome VI/Ange | BLACK CHERRY

BLACK CHERRY

JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

 子供の頃に夢中になった音楽が、一時心が離れることはあったとしても、また何かのきっかけで、思いがけなく接した時に自分の琴線に触れる、なんてことは意外にあったりする。ある種の懐かしさもあるかもしれないし、また、あの頃に戻ってみたいという気持ちは少しはあるかもしれない。夢の中でふいに出会ったあの風景は、いつか自分が行ったことがある、見たことのあるような、なぜか懐かしい、そしてまだ何も知らなかった童心に戻るような、そんな感じがする。そういった感覚に近いものが自分にはあるのかもしれない。サブスクや音楽配信、それどころかまだCDすらなかった時代、レコードのジャケットを見て、中身よりも先に、あれやこれや思いを張り巡らす、そんな時代。遊びに行った友人のお姉さんやお兄さんの部屋にあったレコード棚で発見してジャケットが気になっていたら、まだ音楽の内容などわかりもしないのに、聞かせてもらっていたあの頃。Angeのレコードの出会いもそんな風だった。とにかく彼らの『Emile Jacotey』のジャケットのインパクトは強かった。そして『Au-delà Du Délire』も、何だかわけがわからないなりに、その幻想的摩訶不思議な物語が始まりそうなジャケットに心惹かれてしまったのだ。流れてくるのは浮遊感がある独特のDarkな響きを持ったOrgan怪しげなフランス語のVocal、子供心にジャケットと共に強い印象が植え付けられたのはいうまでもない。そして、とうとうこのLP2枚組のレコードを見つけてしまったのだった。ジャケットから伝わってくる彼らの謎めいたステージの模様は、当時まだLiveに行ったこともない子供にはサーカスや見世物小屋的得体の知れないSF的で幻想的な雰囲気を感じさせるには十分であった。本作は69年に結成され “Rock Theatre”として活躍してきたAngeの全盛期ともいえる70年代集大成ともいえるLive盤である。Francis Décampsの陰影と深みを与える浮遊感のあるOrganとChristian DécampsのTheatricalなVocalが想像力をかき立てる。

 

 

 『Tome VI 』はAnge77年にリリースしたLive Album

アルバムは74年にリリースされた代表作『Au-delà Du Délire』からの3連発で始まる。まずは“Fils De Lumière”。Francis Décamps浮遊感のあるOrganAggressiveなJean-Michel BrézovarのギターをバックにChristian Décamps怪しさ満点のTheatricalなVocalで吼えると、そこはもうAnge独特の幻想空間の中に放り込まれた自分がいるのに気付くだけである。

Les Longues Nuits D'Isaac”は激しいギターのRiffで始まり静と動のContrastが鮮やかな展開の中でChristianが本領発揮の哀感漂う見事な表現力で迫真の歌いっぷり。

LyricalなギターのArppegioをバックにChristianの語りで始まる“Ballade Pour Une Orgie”。中世のフランスの田園風景を想像させるPastralな香りが良い。

『Au-delà Du Délire』に続く75年のこれまた名作『Emile Jacotey』からの“Ode À Emile”。Jean-Michel Brézovarの多彩なギター・ワークとChristianの情感豊かなVocalは歌モノとしての完成度の高さが伝わってくる。

72年のデビュー・アルバム『Caricatures』から大好きな曲“Dignité”。これぞAnge節ともいいたくなるような幻惑された非日常的な世界に引き摺りこまれていく。幻想的なFluteがイイ味を出している。16分の大曲

Le Chien, La Poubelle Et La Rose”も13分の大曲。この曲では鍵盤のFrancisがVocalを担当。

哀感漂うイントロから歓声に包まれる『Emile Jacotey』からの名曲“Sur La Trace Des Fées”。ゆったりしたTempoの中で神秘的な響きと情感に満ちたVocalに惹きこまれていく。

76年作『Par Les Fils De Mandrin』収録の“Hymne À La Vie”は3部構成で語りかけるようなChristianのVocalで始まり彼らの持つ謎めいた物語性が発揮されている。

アルバム最後をシメるのは偉大なるJacques Brelの“Ces Gens-là”。AngeらしいCoverで幕を閉じる。

(Hit-C Fiore)