Thomas F. Browneこと Thomas Francis Browneが名門Vertigoに残したソロ・アルバム。後にEMIからもTommy Brown名義でアルバムを残しているが、1stソロ・アルバムとなる このVertigo盤は最高だ。英国の中の亜米利加、British Swampな魅力に溢れたこの音盤は、2枚のアルバムのみで消えてしまうには余りにも勿体ないこの男の才能を物語っている。ReverbがかけられたVocalは男くさいというよりはGentleでNaturalな歌いっぷりがイイ感じだ。バックを固める腕利き連中の燻し銀の演奏も味わい深いし、何より楽曲の出来が素晴らしい。一体何者なんだろう?BrowneはGeorgie Fame & The Blue Flamesのベース奏者Rod "Boots" SladeやギタリストのColin Greenも在籍していた英国のinstrumental Rock and Roll BandのNero and the GladiatorsにDrummerとして加入している。彼らは鍵盤奏者の "Nero" ことMike O'Neill率いるバンドで、60年代前半に活動して、それなりにヒットを飛ばしていたようだ。バンドは64年にFranceにTourに出て解散してしまうのだが、後にSpooky ToothやForeignerで活躍するギタリストのMick Jonesもメンバーだった時期がある。Brownはバンド解散後にFranceでSession MusicianとしてFrançoise HardyやSylvie Vartan、Johnny Hallydayらと仕事をしているMick JonesとDuoを組み、State Of Micky & TommyあるいはThe J. & B.名義で録音を残した他、PsychedelicなNimrodやModなThe BlackburdsというBand名義でも録音を残している。Brownは65~71年にかけて上述のMusicianのバックで演奏して楽曲も提供していたようだ。本作は、そんなおフランス帰りの叩き上げSession Musicianの一世一代ソロ・デビュー作に盟友Mick Jonesがギターで参加し、Browneと共に楽曲を手掛けた上にProduceまで協力している男伊達。また鍵盤には、やはりThe Blackburdsの盟友Raymond DonnezやSpooky ToothのGary Wright、ベースにはFotheringayのPat Donaldson、ギターにFotheringayやFairport Conventionの名ギタリストJerry Donahueと腕の立つ玄人好みのMusicianが参加し歌モノのバックはこう弾けとばかりに名人芸を披露している。ChorusにはDris TroyとYvonne "Sue" とHeather "Sunny" WheatmanのSue & Sunnyが参加してSwampな彩りを添えている。
『Wednesday's Child』はThomas F. Browneが71年にVertigoからリリースしたアルバム。
アルバム1曲目“Gentle Sarah”はなんとも味わい深くも渋いOrganで始まり、これぞ正しくBritish Swampなサウンドが飛び出してくる。ジャケットの無骨な髭男の容貌から想像つかない意外に繊細なVocalもイイ感じ。
“Carry My Load”はMajor Seventh Chordを奏でるピアノから始まるが、このイントロがまた泣きたくなるほど最高。英国的な抒情味たっぷりの典雅なStringsや米国南部なGospelの香り漂う女性Chorusも加わり、土くさい演奏を盛り上げまくり。突然Country Rock調になるエンディングも面白い。
Acoustic GuitarとChorusが心地良い“Bowm Bowm Bomm”。これまたギターのEnsembleが夢見心地のお気に入り曲。
疾走感溢れる“Dark Eyed Lady”。Roverbのかかった幻想的なVocalとChorusが最高だけどいかにも英国って感じの優美なStringsが登場するBメロの展開が素晴らしい。これまたギターの絡みやBrownの緩急自在のドラミングも良し。
哀感漂うピアノで始まる“It's Coming”。VocalやStringsが醸し出す英国的な抒情にSwampな女性Chorusやバックの演奏がイイ塩梅の英国の中の亜米利加。
これまた男泣きの“Hold On”はタメのきいたリズム隊にのってBrowneのVocalと女性Chorus、ピアノの調べがたまらない。
“Tomorrow Is Another Day”はGentleなBrowneのVocalとLyricalなギターのArpeggioがたまらんす。
“Poor Man Smile”はほんのりContry風味の爽やかなナンバー。それにしても本当に良い曲書きますなあ。HammondとPedal Steelも気持ち良し。
アルバム最後をシメるのは“The Alamo”。ピアノやHammondと女性Chorusがイイ味出しているBritish Swamp。素朴な歌いっぷりが良し。
(Hit-C Fiore)