
Mercy Dee WaltonのSlow Bluesの弾き語りは沁みる。年を重ねれば重ねるほど、味わい深くなっていく音楽があるとすれば、Mercy Dee WaltonのSlow Bluesはかけがえのないその一つであろう。Texasに生まれ、第二次世界大戦前にCaliforniaに移ってきたDeeは10代前半からピアノを弾き始めている。故郷Texasで身につけたBarrelhouse Pianoで人気を得たDeeは中々録音の機会を得ることができなかったが、49年にようやくデビュー・シングル“Lonesome Cabin Blues”をリリース。53年にSpecialty Recordsからリリースした“One Room Country Shack”が全国的に大ヒット。あのMose AllisonもCoverし、今やBlues Standardとなったこの曲の成功によって、Big Jay McNeelyのJump Blues BandとTourするなど、DeeはようやくFull-Timeで音楽に没頭できるようになったという。50年代前半にImperial、Colony、Specialty、Flairなどに残されたシングルを聴くとDeeはSongwriterとしての才能にも恵まれていたことがよくわかる。53年の“Come Back Maybellene”などは明らかにChuck Berryの55年のヒット“Maybellene”の元ネタである。そして突然契約を失ったDeeが61年にChris Strachwitzによって2枚のアルバムを世に出すことになる。本作は、そのうちの一枚である。 Barrelhouse仕込みのTexas Jump Bluesから洗練されたJazzyなCalifornia R&Bまで、倦怠感漂うVocalとEmotionalなピアノの対比も魅力的で、時にPathosを漂わせたかと思えばHard-Boiledであったりもする味わい深いBluesは最高である。
『Mercy Dee』はMercy Dee Waltonが61年にArhoolieからリリースしたアルバム。HarmonicaにSidney Maiden、ギターにK.C. Douglas、ドラムスにOtis Cherryを迎えた本作では、復帰したDeeは以前の輝きを失っておらず、絶品のSlow Bluesと気合の入ったJump Bluesを聴かせてくれる。
アルバム1発目の“Mercy's Troubles”。Deeの粘りのある歌声と魂こもったピアノを聴いたら惹きこまれること間違いなし。
Sidney MaidenのHarmonicaがイイ感じの“Jack Engine”のピアノからはDeeの思いが伝わってくる。
“Lady Luck”では気怠く引き摺るようなDeeのVocalに鄙びたMaidenのHarmonicaが実にいい組み合わせ。
ノリの良いRock'n Blues“Red Light”。
“Walked Down So Many Turnrows”ではDeeの低音のVocalの魅力が小洒落た語り口で発揮されたSlow Blues。この世界はDeeにしか出せないもの。
“Troublesome Mind”も味わい深いSlow Blues。
“Betty Jean”は軽快なRock'n Blues。
どっしりと腰を落としたSlow Blues“Call The Asylum”。こういう歌い口やピアノはMose Allisonに引き継がれているように思われる。
最後を飾るのは“Mercy's Party”。K.C. DouglasとSidney Maidenの声を聴けるこの曲でアルバムは幕を閉じる。Texas Jump BluesからLowdown BluesまでDeeの音楽スタイルは多様性に満ちている。
(Hit-C Fiore)