Orange/Al Stewart | BLACK CHERRY

BLACK CHERRY

JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC


 Al Stewartといえば、Alan ParsonsがProduceを手掛けてヒットした『Year of the Cat』や『Time Passages』のイメージが強い。どちらも好きなアルバムではあり、Alの鼻にかかった優し気に語りかけるVocalがSaxやStrings、ピアノやアコギなどアコースティック楽器と絶妙のマッチングをみせ、エレピやPercussionが洗練されたスケールの大きい世界を描き出すところは素晴らしい。だからといってAl Stwartの初期のアルバムが色褪せることはないだろう。その瑞々しい感性確かなアコギの腕前で英国の香りを漂うわせる弾き語りを聴かせてくれる初期のスタイルは実に味わい深い。Glasgow生まれで何でも貴族の血をひく高貴な家に育ちながら学校を中退しMusicianを目指しLondonに出てFolk Clubで腕を磨いてきた叩き上げ系でもある。丁度、AlがLondonに出てきた頃はBritish Folk Revivalの時代で、最初はBob Dylanの曲を歌っていたAlも徐々に自作の曲を作り、弾き語りをするようになっていったという。本作の歌詞は私小説的な恋愛事情の告白のスタイルであり、以降の作品ではこういった作風は影を潜めていくようだ。バックにはBrinsley Schwarzのメンバーや、後にThe Attractionsに加わるベースのBruce Thomasが参加している。そして何といってもThomasとともにQuiverのメンバーであった燻し銀のギタリストTim Renwickのギターが光る。Keefの手によるジャケットのごとくElegantで英国情緒に満ちた哀感漂う作品に仕上がっている。Alは近年もアコギ片手に演奏活動を続けているようで、その健在ぶりは嬉しいものである。

 『Orange』はAl Stewartが72年にリリースしたアルバム。
アルバム1曲目はRick Wakemanのピアノで始まる“You Don't Even Know Me”。AlのGentleな歌声や米国志向をみせつつ英国情緒が漂う全体の雰囲気は独特の味わい。
Up TempoでAlの語りかけるような歌声が心地良く響く“Amsterdam”。ツイン・ギターによるソロもイイ感じ。
アコギの弾き語りで始まる“Songs Out Of Clay”。WakemanのOrganも雰囲気が出ている。
Minorのどっぷり哀愁にWakemanのピアノ弾きまくりの“The News From Spain”。Orchestraが大仰に盛り上げるあたり個人的には苦手な曲。
一転してお気楽で魅力的なイントロが最高のBob Dylan作“I Don't Believe You”。
Alのギターの腕前を楽しめるインスト・ナンバーOnce An Orange, Always An Orange”。アコギだけになったところの英国の木漏れ日差し込む森を連想させるパートが素晴らしい。
Minor ChordにのせてAlの歌声がしみじみと訴えかける“I'm Falling”。バックでTim Renwickのエレキが歌いまくっている。
最後は“Night Of The 4th Of May”。私小説的な歌詞が綴られたこのアルバムを締めくくるにふさわしい瑞々しい感性がバックの英国然とした演奏と実にマッチしたナンバー。Bob AndrewsOrganBruce Thomasの存在感のあるベースが良い。
Night of the 4th of May/Al Stewart

(Hit-C Fiore)