ギターにせよピアノにせよ、弾き語りをする時には事前に十分な練習を要する。楽器が単純なコード伴奏ならともかく、自ら歌う歌に対して楽器のRhythmやフレーズが複雑なカウンターとなるような完全に異なる動きをとる場合は、本当に苦労する。これがバッチリうまく噛み合って一体となると実に気持ち良いのだが、これは中々簡単にモノになるものではない。歌につられないように指先の神経を研ぎ澄ましてつつ、自然な動きとなるように身体に覚えこませると同時に、冷静な頭のどこかで歌と演奏が十分に絡み合いながら調和のとれたRhythmやHarmonyが形成されていることを確認しつつ歌い続けなければならないのだ。
Joao Boscoの神技ともいうべき弾き語りは、その驚異的な技巧に圧倒されると同時に、その見事な歌心と自由奔放に世界を行き来する独自の世界に、あっという間に惹き込まれてしまう。まるで身体の一部として見事なほどBoscoの歌と一体化したギターはRhythmの獣のように縦横無尽に動き回りながら歌を盛り上げる役目を完璧に果たしている。Minas Gerais生まれのBoscoの音楽性には、彼のルーツであるSambaのみならず世界各国の音楽からの影響が見られる。Afro- AmericanによるJazzや古典的な西洋音楽、Caribbean Music、Afro、Arabといった、さまざまな民族から生まれた音楽を取り込みながらBoscoはその音楽性を深化させてきたが、その根底にあるのはAfro-Brazilへの傾倒だ。伝統を重んじながらも自由自在にジャンルを飛び越えてきたBoscoはAldir Blancとの名コンビにより数々の名曲を生み出してきた。Elis ReginaがBoscoの曲を数多く取り上げ、その名声は高まったのは事実であるが、それはBoscoの生み出す旋律とRhythmが芳醇で時に悩ましく官能的で、欧米音楽の枠を超えた魅力を持ち続けていることと無関係ではない。
『Linha De Passe』はJoao Boscoが79年にリリースしたアルバム。Joao Donatoのエレピ、Toninho Hortaのギター、ベースにLuizão Maia、ドラムスにWilson Das Nevesという豪華すぎるメンツ。この人のアルバムのジャケットはいつも意味不明だけど、ジャケットの裏を見ると裸足でサッカーを楽しむ本人とAldir Blancの姿が何とも微笑ましい。
オープニングはアルバム・タイトル曲にして“Linha De Passe”。Elis Reginaの名唱で知られる名曲“酔っ払いと綱渡り芸人”。PercussiveなギターとScatが心地良い。
一転して、とびきり美味なメロディーを女性ChorusをまじえてMellowに披露する“Conto De Fada”。Stringsと男女混声Chorusも文句なし。
イントロのキメが激カッコイイ“Sudoeste”はエレピと疾走するリズム隊が、まるで都会のビルの間を駆け抜けていく野獣のようなイメージを描き出す。
“Parati”の混声Chorusをバックにまったりとした世界も良し。
Boscoの色気たっぷりの弾き語り“Patrulhando(Mara)”はVictor Assis BrasilのSaxも加わりフェロモンが濃厚な仕上がり。
“O Bebado E A Equilibrista”はBoscoのルーツが
Sambaにあることが良くわかるナンバー。オーソドックスな中に胸を打つメロディーを描き出すComposerとして優れたBoscoの真骨頂はここにもある。
男女混声Chorusと弾き語りのBoscoが手拍子なんかも入ってイイ感じに盛り上がる“Boca De Sapo”。
ひんやりとしたエレピの響きとRhythmicalなBoscoのVocalが最高な“Cobra Criada”。
都市生活者の夜を思わせるサウンドにBoscoのフェロモン濃厚なVocalが印象的な“Ai, Aydee”。Stringsや不協和音を軽く散りばめた男女混声Chorusが素晴らしい。
ChiquinhoのAccordionが沁みる“Natureza Viva”。極上のメロディー・ラインはこういったシンプルな編成で抜群に生きてくる。これには流石にわかっていてもヤラレてしまう。最高。
最後のシメはギターの爪弾きから始まるRomanticな“Patrulhando(Masmorra)”。ここでもBoscoの優れたMelody Makerとして才能が輝いている。たまらなくMelancholicで、とろけてしまいそうに優美なメロディーに酔いしれる。
（Hit-C Fiore)