The John Lewis Piano/John Lewis | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 Robert GlasperJose Jamesが、D'Angeloが今から十数年前にやっていたことを必死になぞっていると昨日書いた(あれだけ独創性と麻薬的な魅力に満ちたD'Angeloの作品が普遍性をも兼ね備えている証明である)。また、それらを聴いていると70年代のGil Scott-HeronやThe Crusadersがやっていたことを90年代に模倣していた連中がいたことを思い出すと書いた。過去の名作の模倣といえば、いつぞやのHard Bop Revivalというのはどうかというと、それとはちと趣が違う。決して過去の作品の模倣全てを否定するわけではないし、それらへの敬意とHommageを感じられるものもあることは事実である。しかし、どんなに高い演奏技術で物真似をしてみても、肝心の楽曲が残念な出来であれば面白くも何ともないのだ。Jazzの未来とか大層なことを書くつもりはないし、ParkerやMonk、Mingus、Miles、Coltraneレベルの独創性や革新性を今のJazzに求めているつもりはないけれど、演奏テクニックの高さとオサレで小奇麗なAtomosphareだけではケニーGやフォープレイ的な残念感が漂うだけなのである。例えばSteely Danを聴いて、物凄く期待しまくって、そこに参加していたMusicianのリーダー作を聴いた時の激しいガッカリ感に近いものがそこにあるのだ。Glasperは演奏力は高いしセンスだって悪くないはずだが、以前書いたようにエロBlues、相手と道具を使わず素手で殴りあうような肉体性といったBlack Musicが本来持っている魅力が足りないことも残念なのだ。同じような官能性や肉体性が作品から感じられないJazzピアニストにJohn Lewisがいる。好き嫌いや賛否両論があるにせよ、品の良さとか知性というJazzの魅力の中ではPriorityが低いとしか思えないものを持ち合わせ、Lewisが自分の美意識に忠実に独自の世界を作り上げていることは認めざるを得ない。Lewisの場合はHancockやOscar Petersonのような演奏力で勝負するのではなく、生涯ブレる事のない独特の美意識に基づいた作品の完成度、構築力で自身の存在をアピールしたのだ。素手での激しい殴り合いやエロやヤクといった危険な香りとは無縁の無菌室で奏でられる室内楽のようなそれは、ひとつの個性として認めるべきである。

  『The John Lewis Piano』はJohn Lewis56年7月から翌57年の8月にかけてAtlanticに録音した作品である。約1年間かけてDuoTrio形式でコツコツ完成させたというのは当時のJazzの世界では珍しい方法論かもしれないが、MJQで多忙の日々を送っていたであろうLewisらしい。少しづつ丁寧に作り上げていこうとした作品であるのかもしれない。『The John Lewis Pino』という文字しか見当たらないジャケットには彼の知性的な横顔が写されている。演奏技術が高いのは十分わかったけれど、楽曲の完成度が低くすぎて全く楽しめないJazzを最近聴いていたせいか、好き嫌いは別にして本盤のLewisの孤高ともいえる楽曲の完成度への執着心に好感が持てる。全7曲中、自作曲以外の4曲の楽曲へのアプローチも独自の解釈が見られる。同じMJQMilt Jacksonがグループを離れた時に野人と化すのは知られているが、それとは対照的に、ここまで頑なに自分の美意識を徹底させていくLewisに脱帽だ。MJQからMilt Jacksonを除いたメンバーが参加している。ベースのPercy HeathにドラムスのConnie Kayである。ギターにはJim HallBarry Galbraithという知性派の2人。
オープナーの“Harlequin”はConnie KayのドラムスとLewisのピアノのDuo。Swingしない独特のRhythm感覚。ひとつずつ音符を確かめるように置いていくかのような抑制されたピアノ。MonkのEspritや革新性とは違ったLewisの個性に満ちている。
MJQのリズム隊3人による演奏、つまりピアノ・トリオの“Little Girl Blue”はClassicalRubatoと後半のソロでのふと見せる感情の高まりの対比が面白い。
Barry GalbraithとのDuoとなる“The Bad And The Beautiful”。Jim Hall同様に抜群の和声感覚を持つGalbraithらしい繊細でツボを突きまくるバッキングが最高。正にLewisのピアノを心地良く聴かせるために絶妙のバッキングに脱帽。Barry Galbraithもまた一般的には過小評価されているギタリストの一人である。
再びMJQ内ピアノ・トリオの“D And E”ではBluesyに、しかしあくまでもEmotionalな部分を抑制したLewisの個性が光る。例え高い演奏技術がなくても、いかに聴き手を楽曲の魅力とアレンジ力で楽しませられるかが見事に表現されている。
Miles Davisの名演で知られる“It Never Entered My Mind”。Bachの影響を受けたLewisとGalbraithによる対位法的アプローチが見事。このIntimateな感覚はEuropeanな優雅さを醸しだしている。
続いてもGalbraithとのDuoで“Warmeland”。“Deat Old Stockholm”として知られるSwedenの民謡。空間を生かし、前曲同様のEuropeanなBaroque調で楽しませてくれる。Galbraithのソロもセンス抜群。
最後をシメるのはJim HallとのDuoによる組曲Two Lyric Pieces”。“Pierrot”と“Colombine”の2曲から成るこの組曲も哀愁漂う前者と、Abstractに始まりこれまた泣きのメロディーが炸裂する後者が絶妙に並べられている。この余韻を残す終わり方がスゴイ。アルバム全体を通してLewisの構築力の高さと執念に驚かされる。
(Hit-C Fiore)