
むし暑かった夏も過ぎ去り、こういう季節になると聴きたくなる音楽がある。やっぱり風雪に耐えてきたメロディーは素晴らしい。いつの時代でも変わることなく自分らしい良質のメロディーを生み出そうとしてきた人たちがいる。67年にレコード・デビューし70年代に活躍したIreland生まれのGilbert O'Sullivanもその1人だ。現在も活動を続けているO'Sullivanだが、さまざまな理由から活動が停滞していた時もあった。これまで何回かの浮き沈みがありながらも、安定した作品を届けてくれるO'Sullivanは近年、何回も来日して日本のファンも楽しませてくれている。そして、あまり話題になることも少なかった80年代の作品が最近リマスターされてReisueされたのは嬉しい知らせだ。Punk以降の80年代というのは、従来の価値観や体制や基準が真っ向から否定された時代でもある。良くも悪くも、サウンドやメロディー、楽曲自体が、これまでメジャーなマーケットを通して世間に伝わってきた音楽と違った試みで制作され、次々と人々の好奇心を刺激していく事になった。その一方で黙々と従来のPopsやRockの伝統を受け継ぎクオリティーの高い作品を作り上げていった人たちはいることにはいた。しかし多くの人が、当時の新しい波に飲み込まれて過小評価されてきた。O'Sullivan自身も80年代は終わりの見えない法廷闘争やレコード会社のトラブルで、サポートを十分に受けることができずにセールス的には不遇であった。だが、楽曲自体は決して見劣りするものではなく、この機会に再評価されるべき作品を残している。特に10ccのGraham GouldmanがProduceした82年作『Life & Rhymes』が隠れた名盤である。本日はあえてレコード会社を移籍して80年代に再スタートを切るべく発表された『Off Centre』をご紹介したいと思う。77年の『Southpaw』から3年ぶりのリリースとなった本盤。確かに、前後の佳曲ぞろいのアルバムに比べると地味かもしれない。が、バンドメンバー達といっしょに歌い、ピアノを弾き、相変わらずのO'Sullivan節が健在なのがうれしい。英国人のMusicianと共演してもIrishらしいメロディーが顔を覗かせるところが良い。Rory Gallagherとも共通するのは、そういったIrishとしてのIdentityがBluesやPopsでもRockであろうと底流に流れていることだ。今でも、時代に流される事なく、決して色褪せることのない珠玉のメロディーを紡ぎだそうとするO'Sullivanの姿勢には脱帽だ。
『Off Centre』はGilbert O'Sullivanが80年にCBSからリリースした6枚目のアルバム。
ProduceはGus Dudgeon。DudgeonがProduceしたChris Reaのアルバム『Deltics』に参加していたMartin Jennerのギター、さらにTim Renwick 、 Ray Russellといった職人ギタリストも参加。ベースのPhil CurtisもReaのアルバムに参加していた名手だ。ドラムスはElton JohnやWingsで叩いていたSteve Holley。鍵盤はPete Wingfield。Dudgeonつながりで中々手堅い英国Rockのツワモノたちがバックを固めていてうれしい。
アルバム1曲目“I Love It But”は哀感に満ちたメロディーのナンバー。Chris ReaがAccordionを弾いているのが興味深い。
“What's In A Kiss”は転調といい、かつてのGilbert O'Sullivanが帰ってきた感じ。Terry Coxがドラムを叩いている。
“Hello It's Goodbye”は、ありふれたPopsのようで時折みせる、らしい旋律が、復活を感じさせる。
Oldies風味のロッカ・バラードの“Why Pretend”。
ピアノ弾き語りから始まる“I'm Not Getting Any Younger”はJazzyなバッキング、Stringsで徐々に盛り立てていくナンバー。
“Things That Go Bump In The Night”は陰りのあるBritish Popらしい曲調のナンバー。FalsettoもまじえたVocalが面白い。
力強いピアノでノリノリの“Help Is On The Way”。
同じくピアノ連打で始まる“For What It's Worth”はSteel Guitarがアメリカンな味を出していて面白い。
“The Niceness Of It All”はメロディーも勿論良いが短めの大サビ、間奏のFluteが素晴らしい。英国風味のギター・ソロも良し。
Gilbert O'Sullivan節が炸裂した“Can't Get Enough Of You”。ドラムスにDave Mattacks。アコギはRay Russell。こういう泣きのメロディーはたまらんですな。派手に盛り上げすぎない抑え気味のStringsも素晴らしい。大好きなナンバー。隠れた名曲。
歌詞が素晴らしい“Break It To Me Gently”はしっとりと歌い上げるBallad。ここでも控え目なOrchestrationにGus Dudgeonのセンスを感じる。
最後をシメるのはピアノのコード連打に始まりギターがいかにもBritishな“Or So They Say”。
最高っす!
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◎Can't Get Enough Of You/Gilbert O'Sullivan
(Hit-C Fiore)