
心から敬愛する英国の音楽家Michael Garrickが昨年の11月に、この世に別れを告げたのは既にお伝えしたとおり。優れたJazz Pianistとして、JazzとPoetry Recitations(ポエトリー・リーディング)融合のPioneerとして、そして何よりも英国らしい典雅で知性と詩情に満ちた香りを漂わせるComposerとして比類なき存在であった。University College, Londonで文学を学び英国文学のB.A.を取得したGarrickはJazzに文学の持つ情感や批評性、精神性といった要素を与え、英国人らしいJazz、英国人でしか表現し得ない深い味わいのあるJazzを追求していった。Shakespeareや詩人のKeats、そして作曲家Deliusを生んだ英国ならではの趣がそこにはある。また、個人的に大好きなNorma Winstoneという、英国人女性Singerの幻想的、牧歌的なScatやVoiceをFeatureして創りあげた作品の数々は永遠に色褪せることのない名作ぞろいである。勿論、英国が誇るThe Don Rendell Ian Carr Quintetにピアニストとして参加した作品は欧州Jazz史上に残る優れたものである。65年から69年まで参加したこのQuintetでは、Garrickの作品も取り上げられてComposerとしても優れた功績を残した。それに先立ち、Garrickは50年代末からJamaica生まれのJoe HarriottやSt Vincent出身のShake Keanといった個性的なMusicianをメンバーに加えた自己のQuintetを率い、60年代初頭から活発化していく"Poetry & Jazz in Concert"の音楽監督として名を知られていた。また、晩年は教育者としてもRoyal Academy of MusicやTrinity College of Musicで教鞭を執り、自らもSummer Schoolを始めるなど、Jazzの教育に力を注いでいた。さらに、Jazz Academy Recordsという自身のレーベルを設立して精力的に作品をリリースしていて、息子のViolin奏者Chrisが参加したStrings Quartetのアルバムは個人的に大好きな作品だ。さまざまな実験的な試みを繰り返しながらも、一貫して〝英国的なるもの〟をJazzを通して追求してきたGarrick。それゆえに純粋に、形式的なJazzだけを求める人たちには、掴みどころのない音楽として捉えられてしまうかもしれない。自分には、そんなGarrickの紡ぎだす英国音楽が、たまらなく魅力的なのだ。若き日のGarrickのMod入った髪型や服装のセンスなど佇まいも非常に英国的であり、そんなところもお気に入りである。
『Black Marigolds』は66年に録音されたMichael Garrick Septet名義でのアルバム。Garrickは、Piano TrioやJazz Orchestraに留まらず、さまざまな音楽形態で、Jazzに英国の伝統音楽やRagaなどの民族音楽を取り入れた独自のアプローチを展開してきた。そして上述のようにJazzとPoetry Recitationsの融合の先駆者としてのGarrickは、英国人である自らのIdentityを踏まえた上でBritish Jazzの可能性を拡げてきた。Jazzに真の意味でHipでProgressiveな歩みを与え続けた才人である。だからこそ後年、Gilles PetersonによってDJやClubで踊る人々にも、その才能を評価され注目を浴びる時代が来た。Garrickが生み出した作品は今でも、その輝きを失わない。それどころか、ジャンルの壁が取り払われた今だからこそ、Garrickの独創的な音楽は、新しい価値観を持つ人々にも新鮮に感じられるだろうし、これからも楽しまれていくだろう。
本盤は全9曲中、Septetでの演奏は3曲。The Don Rendell–Ian Carr QuintetのメンバーにTenorのTony Coe、盟友Joe HarriottのAltoを加えた編成。Don RendellはTenorにSoprano、Ian CarrはTrunpetにFlugel Horn。Dave Greenがベース。ドラムスはSeptetではTrevor Tomkins。それ以外はColin Barnes。Poetry RecitationsやGarrickがHarpsichordとCelesteを演奏しているナンバーもあるため、コアなJazzファンにとっては、こういったGarrickのスタイルは理解しがたいところがあるかもしれない。しかし、これが実に人間的な温もりを感じさせ、英国的な優美で高貴な香りやHumorをも漂わせているのである。HarpsichordやCelesteが心地良く響き、英国紳士が語るようなPoetry Recitationsもバックの演奏と相まってImaginationが喚起される。欧州Jazzにある硬質で冷徹な美しさとは、また違った、ジャケットの絵のような趣があり、心が揉み解されていくような気分になる作品である。
アルバムのオープニングは“Webster's Mood”はBen Websterに捧げられたナンバー。英国のDuke Ellingtonの面目躍如である。Tony CoeのTenor、Joe HarriottのAltoソロがAggressiveで素晴らしい。
“Jazz for Five”はJazzをバックにJohn SmithによるPoetry Recitations。
“Good Times”はタイトル通りの曲調だが演奏はキレキレだ。Rendellは貫禄を見せ、Ian CarrのTrumpetソロはMuteされて演奏されるが実にEmotional。Garrickのソロも最高。Themeを一糸乱れぬ鉄壁のEnsembleで実に爽快なParty Tune。
Harpsichordソロで“Spiders”イタリアのTarntellaをTarantulaにかけたタイトルもお茶目。
英国的詩情に溢れたJazz Waltzの“Ursula”は名曲中の名曲。Don Rendellの英国情緒漂うSoprano Sax、Ian CarrのFlugelhornとTony CoeのTenorも最高。
再びJohn SmithによるPoetry Recitations“Jazz Nativity”。英国Jazzらしいバックの演奏と、この朗読がなんとも和みますな。
“Black Marigolds”はRagaの形式を使ったHarpsichordソロ。Ragaのフレージングが幻想的。
“What Are Little Girls?”はCeleste Trioで、とびきりSweetな砂糖菓子のような愛らしいメロディーが奏でられる。それでも例によって、小節数と6拍子、9拍子、3+3+2拍子が入り混じるRhythmと組み合わせた仕掛けを忍ばせているのがGarrickらしい。
最後の曲はHarpsichord Trioで“Carolling”。Carolとは英国に古くから伝わる踊りのための民謡。そのCarolの形式を用いてClassicalなムードを出しながらも踊りたくなるようなWaltzに仕上げている。
◎大御所John DankworthをFeatureした90年の演奏。
◎Webster's Mood/Mike Garrick & John Dankworth
◎Michael Garrick, Don Rendell,Gilles Peterson Interview
(Hit-C Fiore)