
春を迎えるうれしさを生まれて初めて素直に感じる事ができなかった昨年から1年がたった。毎日の忙しさが、いつの間にか自分から悲しみとぶつけようのない怒りを忘れさせようとしている。先日、被災地を拠点とするクライアントの方からいただいた手紙を読みながら、この一年間で自分が一体何をやってこれたのか、何ができなかったのか自問自答してみた。仕事が年々増えていくのは本当にありがたいことだけれど、その事を理由にして本来やらなければならない事を、実はサボっているのではないか?自分は、まだまだ未熟者である。無邪気に春の訪れを楽しんだ頃の事を思い出しながら、目の前に積み上げられたメモとスケジュール表をにらみつけた。
Gongのオリジナル・メンバーBloomdido Bad De GrassことDidier Malherbeは Paris生まれのSax/Flute奏者。その独特の風貌も相まって不思議さん揃いのGongのメンバーの中でも一味違った存在感を放っていた。あらゆるモラルを飛び越えてしまうヤンチャなヒッピー爺である親分Daevid Allenも強烈な個性と唯一無二の才能の持ち主だが、Malherbeもオトボケ爺な風貌からは想像もつかない相当な才人である。むしろMalherbeやSteve Hillageという音楽的に強力な名参謀がいたからこそ、GongでAllen爺が好き放題暴れまくっても、あれだけ素晴らしい作品が生まれたといってもいいだろう。Jazzや民族音楽に精通したMalherbeの多彩な才能はGong脱退後もジャンルの壁を越えて、いかんなく発揮されている。特に本盤は有能なメンバーを結集したMalherbeのJazz Rockよりの作品としてかなり気に入っている。Malherebeのソロ・アルバムや、後のFaton BloomやShort WaveやHadouk Trioでの活動に接するたびに、オトボケの仮面を被った高い音楽性を持ったMusicianであるBloomdid、Didier Malherbeに驚かされっぱなしである。
『Bloom』は80年に録音されたDidier Malherbeの1stリーダー作。78年にGongを離れ、Parisに戻ってきたMalherbeは優秀なメンバーを探し出し80年に、このBloomというBandを結成している。このメンツが強力である。知名度こそ高くないものの、演奏技術が高いだけでなく、目立たないながらも独特の個性を至るところでアピールしている。彼らの長所を損なうことなくEnsembleをまとめあげているリーダーとしてのMalherbeの才能は評価に値する。全5曲中1曲を除きすべてMalherbeの作品。若き有能なギタリストのYan Emeric Vaghは後にGilli SmythのMother Gongに加わったりもしているが、アコギも上手いしエレキでのソロも独特である。本格的にClasical Compositionを学び現在もギタリスト、作曲家として活動している。鍵盤奏者のMico Nissimは Claude Barthélémyとの活動で知られる。Barthelemyが音楽監督を務めたOrchestre National de Jazzのメンバーとして、なんと91年に来日している。ドラムスのJano Padovaniは、ClearlightのCylle Verdeauxが同時期に率いたプロジェクトDelired Cameleon Familyでドラムを叩いていた人物。Trinidad生まれのベーシストWinston BerkeleyはMartinique育ちでぶっといベースを弾く。
アルバムのオープニングはMalherbeのSaxに導かれて始まる“Bateau-Vole”。Jano PadovaniのBilly Cobhamも真っ青のドラミングでド肝を抜かれ、全員が怒涛のノリで疾走していく様は圧巻。途中で導入される民族音楽調のVoiceが素晴らしい。
Yan Emeric VaghのアコギとMalherbeのSaxのユニゾンが美しい“Whiskers”。NissimのMoogがSteely Danの大好きな名曲“King of the World”を思わせる。Vahのギター・ソロやNissimのMini Moogソロも良いがバックで、やはり民族音楽調のかけ声がかかり、リズムが変幻自在に暴れまくるところが最高。この曲のみベースはPeter Kimberley。低音でうねりまくる6弦ベースが良い。
“Indecision”はヘンテコVoiceや笑い声から始まる導入部がGongを彷彿とさせる摩訶不思議ワールド、そしてGentle GiantばりのPolyrhythmノリによるリフの中間部を経て後半はベースのフレーズを合図にClavinetとうねりまくるベースがFunkyなナンバーへと展開していく。全体にMalherbeの語りや民族音楽風で歌われる部分に感じられるシュールな感覚や英語やフランス語も乱れ飛ぶ無国籍感が良い。
Vaghの流麗で幻想的なアコギ素晴らし過ぎる“Dan-Dan”。この曲のみVaghの作曲。徐々にJohn McLaughlinのMahavishnu Orchestraばりにスケール・アップしていく。VaghのソロやNissimのエレピ・ソロもJano Padovaniのドラム・ソロも短いながらも素晴らしい。カッコ良すぎっす。
最後のナンバーはFluteで始まる“Suite A Tout De Suite”。ここでも疾走するリズム隊にのってアコギやエレピの奏でる美味な旋律に脱帽。
(Hit-C Fiore)