Rising/Mark-Almond | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

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 まだまだ困難な状況は続いているし、多くの方々が不安な日々を送っている。スピードや先々の見通しなど、依然として問題点を沢山かかえている現状で、不満はたくさんあるが、それでも少しずつだが復興へ向けて進んで来ていると思うし、一日も早くそうなるように願うことに変わりはない。あの日に戻ることはできないけれど、また前を向いて日々を穏やかに過ごせる日が来ることを心から願う。大好きなMark-Almondのアルバムの中でも『復活』という邦題がつけられた象徴的なタイトルのアルバムを、願いを込めて。
 Mark-Almondは、個人的にはTommy EyreRoger Suttonが参加していたBlue Thumb最初の2枚のアルバムにつきる。しかし、英国人にしか作りだせない音楽としての魅力に溢れた初期の作品から、徐々にJon Markの理想とする音楽を体現するためのユニットとなっていった彼らの後の作品も大好きだ。Mark-Almondとは、その名の通り、ギタリストでVocal担当のJon Markマルチ管楽器奏者John Almondという2人の人物の名前から命名されている。Jon Markは、元々60年代から英国音楽界で活動を始めてThe Rolling StonesThe Kinksのメンバーとも交流があったようだ。Mick JaggerとともにMarianne Faithfullの初期の作品に関わっている。彼女のツアーにもギタリストとして同行している。一方、Johnny AlmondはZoot Money's Big Roll BandThe Alan Price Setに参加し、LondonのR&BやBlues、Jazzが渾然一体となった音楽シーンで頭角を現していく。そしてJohn MayallBlues Breakersの『Blues Breakers with Eric Clapton』への参加。その後、John Mayallの69年のアルバム『The Turning Point』でMarkとAlmondの2人がメインで起用されることになる。MayallはBlues Breakers解散後にドラムレスでBluesとJazzの融合を目指し、それは次作『Empty Room』まで続く。そこで、ともに売れっ子のSession Musicianだった2人は、新たな可能性を感じ意気投合したのかもしれない。それぞれMayallの元を去り、2人が新しいバンド結成に向かったのは必然だろう。JazzやBlues、さらにはLatinやTradといったさまざまな音楽を取り入れながら無国籍風にSophisticateされた音楽。それでも初期の彼らの音楽からは、英国人ならではの、牧歌的で詩情豊かな世界が浮かび上がってきた。より洗練され完成度を上げた以降の作品も、Innovativeでありながらも人間味溢れる音楽であることは変わらない。それはJon MarkのWhisper気味のVocalとアコギの爪弾きと少しほろ苦い歌詞が象徴している。そしてAlmondのSaxやFluteで描き出す映画のような世界。彼らの音楽は今でも色あせることのない、永遠に聴き続けられるものだ。

 『Rising』は72年にリリースされたMark-Almondの3枚目のアルバム。残念ながら結成時のメンバーである鍵盤奏者のTommy EyreとベースのRoger Suttonは脱退したが、Ginger Baker's Air Forceから鍵盤奏者Ken CraddockとベーシストColin Gibsonを加えた。Almondの友だという、同じくマルチ管楽器奏者で、OboeやTrumpetも吹くGeoff Condonも参加。ドラムスには前作から参加したCharles Mingusのバンドを支え続けたDannie Richmond。ProduceはBruce Botnick。LondonだけではなくParisやLA、Hawaiiで録音されているのが彼ららしい。
アルバムのオープニングはGeoff CondonのLylicalなTrumpetに導かれて始まるVocalが哀しく切ない“Monday Bluesong”。Fluteとギターの爪弾きが効果をあげている。映画のオープニング・シーンが思い浮かぶようだ。JonのVocalはChet BakerSerge Gainsbourgのように気怠さ官能を伴った語り口だ。そして、どこか哀しく孤独を感じさせる。
Song For A Sad Musician”もまた、孤独な音楽家の独白のような歌詞とあいまってVibraphoneFluteが描き出すのは、大人の世界としかいいようがない極上の音楽。
英国的な佇まいをみせる“Organ Grinder”。アコギと口笛が素晴らしい。
VocalはJonじゃないけれどアコギが最高の“I'll Be Leaving Soon”も大好きなナンバー。VocalはKen Craddockかな。後半のSaxが入ってくる展開もカッコイイ。
名曲揃いのA面の最後を飾るのはダメ男賛歌What Am I Living For”。いつ聴いても勇気付けられるナンバー。CraddockのHammondも効果的だ。
B面頭の躍動的なナンバー“Riding Free”は、このアルバムの中では浮いている。激しく煽るDannie RichmondのドラミングとHorn隊に、Shout気味に歌いエレキでソロを弾くJon Mark。
イントロのエレピとFluteが素晴らしい“The Little Prince”は美しく儚い夢のようなナンバー。
最後の曲はアコピをバックに切々と歌われる“The Phonix”。まだ仄かに英国の香りは漂っている。
(Hit-C Fiore)