Saved/Bob Dylan | BLACK CHERRY

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JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC


 はっぴいえんどの“風をあつめて”を「ボサ・ロック的」だとか、「コードやリズムが十分に 機能していない」なんていう全く的外れな発言をしている人がいるらしい。16ビートのこの曲の、どこがボサなのかとか、コードにしてもMajor Seventh分数コードは別にBossaじゃなくてもJazzやSoulやRockでも使われてるわけだが、この曲では、それらに加えてSubdominat Minorの使い方が非常に効果的だ。また「グルーヴやフロウが止まってしまっている」なんて、これまたトンチンカンな事を言ってるらしいが、この曲は、16ビートのタメのきいたリズムに、きわめて松本隆さん的な世界が描かれた日本語の歌詞をよく自然にメロディーにのせられたなと驚かざるを得ない。しかも、Aメロ~Bメロ~サビへの展開の中で絶妙のコード進行により、音にストーリー性をもたせて鮮やかに表現しているナンバーである。そして短時間で録音したゆえに生み出される即興独特のノリがあるのだ。あのRhythmにのせ、ノリをだすのが非常に困難な日本語の歌詞をどう処理しているのか?この曲は、ノリとタメを生かした日本語のRhythmへの非常に洗練されたのせ方が最高に気持ち良いのだ。単語の頭の一文字を絶妙にSyncopateさせた譜割りが心地良いノリを生み出している。「街のはずれの」の“は”や、「散歩してたら」の“し”といったところが鳥肌モノだ。また、タメを利かせたDoppel Dominatへ至る「背伸びした」も絶品だ。さらに素晴らしいのは、サビ前の、Ⅵm7ーⅡ7というDoppel Dominatへの繰り返しで、「海を渡る起き抜けの路面電車」という非現実的な白昼夢のような描写を、あえて淡々としたメロディーにより徘徊するかのように表現し、一気に爆発的なインパクトを持つサビへと向かっていくところが素晴らし過ぎる。
 言葉とメロディーとノリの関係と言えば、自分にとってBob Dylanの作品を理解するのは難関であった。Dylan独特の言葉ののせ方が苦手であった。だから、考えずにいた。そのうち、Dylanの作品については、邪道と言われるだろうが、歌詞の意味も深く考えることなく、純粋にバックのサウンドとVocalという全体の音として受け入れるようになった。従って宗教的なDylanの非常に評判の悪い本作も歌詞はまったく関係なしに純粋に音だけで楽しんでいたのだ。自分が無宗教であったこともあってか、Dylanが宗教に傾倒して制作した「キリスト教3部作」といわれる作品も、サウンドだけ聴いていれば案外楽しめるものなのだ。それにしても、このジャケットはヘビメタさんみたいだ。

 『Saved』はBob Dylan80年にリリースしたアルバム。前作『Slow Train Coming』に続くMuscle Shoals Sound Studioでの録音であり、同様にBarry BeckettJerry WexlerによるProduceである。Dylanの例の言葉ののせ方が気になるものの“Solid Rock”と“Pressing On”というBob Dylanで好きな曲の5本の指に入る2曲が収録されているアルバムだ。あまりにもSwampどっぷりの音でVocalがDylanである必然性はあるのかという話もあるだろう。そして無宗教の自分には歌詞の意味も理解できないし関心もない。しかし、この時期の悩み苦しんでいるらしきDylanが、あの字あまりでRhythmのノリが悪い言葉を投げかけることによって、その音とともに何とも弱みを見せまくりの人間くさい味を出しているのだ。Swampの香りのするサウンドとともにDylanの苦しみや悲しみが感じ取れる歌詞何かにすがりつきたいといういう思いとがCarolyn DennisClydie KingらによるGospel調のChorusとともに胸に迫ってくる。それを包容力たっぷりに包み込む南部の音。前作からSpooner OldhamFred Tackettが加わり、そしてなんといってもJim Keltnerのドラムスである。ベースのTim Drummondとのコンビ(大好きなRyのアルバムできける)が素晴らしいのである。
アルバム1曲目は50年代に発表された曲のCoverで“A Satisfied Mind”。Johnny CashThe ByrdsもCoverしているが、The Bandとの『The Basement Tapes Complete』でもこの曲をやっているのが発見されている。GospelなChorusとギターだけをバックにDylanのVocalは彼なりにBluesyな雰囲気を出そうとしている。
Up Tempoでバックのエネルギーに満ちたサウンドが印象的な“Saved”。
Dylan独特のVocalがMellowともいえる曲調とマッチしているBalladCovenant Woman”。
SwampなサウンドにのってDylanの胸に迫るHarmonicaが絶品な“What Can I Do For You?”。
お気に入りの曲“Solid Rock”。Riff良し、Chorus良し、何といってもTim DrummondJim Keltnerリズム隊が素晴らしい
Gospel風味の曲調とChorusが素晴らしい“Pressing On”。 賛否はあるかもしれないがAlicia Keysが映画『Muscle Shoals』でCoverしていたナンバー。
ギターRiffがカッコイイ“In The Garden”。
Hammondがイイ感じの“Saving Grace”。歌詞はともかくDylanの語りかけるようなVocalが印象に残る。
最後は、ただバックのどっぷりBluesyな雰囲気に浸りたいAre You Ready”。ギターもHammondもChorusもピアノも最高。

Pressing On/Bob Dylan

Solid Rock/Bob Dylan

(Hit-C Fiore)