昨年はCD化されたDusko Gojkovicの『Slavic Mood』を本当によく聴いた
気がする。
彼に限らず東欧出身のミュージシャンの作品を聴く事が多かった。
少し前まで入手困難であった作品が再発されて手に入りやすくなった事には
本当にうれしい。
ヨーロッパ出身のトランペッターは個性的で独自の感性によって表現していく
オリジナリティに溢れた世界で、我々に新鮮な驚きを与えてくれる人が多い。
なかでも旧Yugoslavia出身のトランペッターDusko Gojkovicの描く世界は
特異なメロディやリズム感覚が、バルカン情緒とでもいうのであろうか、自分が
勝手に思い描く、かの地へのExoticismを刺激してくれて魅力的だ。
特に『Swinging Macedonia』や本作品でのDuskoの、詩情豊かでほんのりと
哀感を感じさせるフレージングや音色は特筆すべきだ。
スペインのカタロニア出身の名ピアニストTete Montoliuと組んだ71年作の
『After Hours』でのリラックスしながらも、心の奥底まであったかくしてくれる
情感のこもった演奏も好きだ。
東欧出身で、欧米の一流ミュージシャンと対等に渡りあいながらバルカン出身
のアイデンティティーを失わずに個性を発揮するDuskoは素晴らしい。
18歳でBelgrade Radio Big Bandに加わったDuskoはドイツへと旅立ち、
Francy BolandやClaus OgermanやChet Baker,StanGetzとの出会いを
経てClark-Boland Big Bandに参加して活躍したという経歴を持つ。
MilesやChet Bakerに影響されながらも東欧出身らしい瑞々しい感性と情感
に満ちた味わい深い世界で魅了してくれるDuskoの作品は大切な宝物だ。
『Slavic Mood』は74年にRomaで録音された。
全7曲Duskoのオリジナル曲で固められ、Modalな響きと祖国の民謡に影響を
受けた旋律美が際立っている。
冒頭のタイトル曲“Slavic Mood”は暗色で深い悲しみに耐えているかのような
哀愁を醸しだす。
次の“Got No Money”は憂いを秘めがらも、前の曲とはうって変わって小粋に
スウィングするJazz Walts。
Milesや晩年のChetを思い起こさせるリリシズムに満ちた味わい深いバラード
“No Love Without Tears”。
名曲“Old Fisherman’s Daughter”はこういう季節に特に聴きたくなる、暖かさ
に満ちた、美しいメロディーを持ったエバーグリーンなナンバー。
“kosmet”は近年クラブでも人気の5拍子のExoticな旋律が印象的な作品。
“Flyng Rome”は疾走感に満ちた、テナーやピアノのソロもDuskoに負けじと
熱く燃える、これまたフロアキラー。
冷え込む季節に、若き日のDuskoのこの作品を聴いて身も心も暖められるの
は、ささやかな贅沢なり。
Hit-C Fiore