「エウレカの確率 よくわかる殺人経済入門」 石川智健 講談社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

大手製薬会社の食堂で、自社の人体実験を告発する文書が見つかった。

慌てるコンプライアンス課をよそに、研究員が自宅で怪死。

事件性が疑われるも、研究員はアレルギー発作によるショック死と断定される。

猫背のスイーツ男子、経済学捜査員・伏見が、殺人の「効用」を分析して犯罪動機と真相に迫る人気シリーズ。

 

 

エウレカの確率 よくわかる殺人経済学入門 (講談社文庫)

 

 

「探偵役が経済学者?」

 

「まあ一応刑事ではあるらしいんだけど。でも殺人事件の捜査にあたるのに、他の捜査一課の刑事たちとは行動を共にしないというところが特殊かな」

 

「殺人事件を解決するアプローチも特殊なのかな?」

 

「………」

 

「え?」

 

「……どうだかね」

 

「だってせっかく経済学者を探偵役に据えているんだよね? オビにもゲーム理論で犯罪動機を解明する、って書いてあるよ?」

 

「まあ、実際そうなんだけどね」

 

「どういうことさ?」

 

「経済活動って、生産や流通、購入なども含まれるけれど、端的に言えば利益を追求することだよな。犯罪もそれと同じで、利益を追求するために行われる」

 

「はあ……」

 

「だからその殺人によって『誰が一番得をしたか』を考えれば、おのずと犯人は判るし、そのために経済学が使えると。そういう理屈なんだな」

 

「でもさ、それって経済学も何もフツーの犯罪捜査じゃない?」

 

「あ、やっぱりそう思ったか」

 

「思うでしょこれ。誰がどう読んでも経済学の意味ないもん」

 

「アプローチとしては面白いんだけど看板倒れの感が強いな」

 

「トリックは、まあつまらなくはないんだけどね」

 

「少しネタバラシするぞ」

 

「うん」

 

「ピーナッツアレルギーを持っておりエピペンを手放せない相手に対し、ピーナッツの成分を含むクッキーを食べさせる」

 

「実際はそのクッキーでは含有量が少なくて死ななかったので、ピーナッツバターを口に含んでキスをしたんだよね。極めて事故死に判断される可能性が高いケースだね」

 

「その前に本人にそのクッキーを買いに行かせて、スーパーの防犯カメラに撮らせているというのも巧妙だな。確かにこれなら普通は事故死で済む可能性は高い」

 

「まあ、それだと小説にならなくなっちゃうから」

 

「この小説の場合、トリック云々がメインではなくて、経済学の応用で犯人の動機をあぶりだすというところが眼目なんだけど……まあ、それがうまくいっていない感じがするのが極めて残念」

 

「文章は特別巧いわけじゃないけど、まあ読めるし、経済学がどうのこうのって言っちゃうから、『経済学カンケーないじゃん』ってツッコミが起きるわけで、経済学抜けばフツーのミステリとして、まあよくまとまっていると思うよ」

 

「経済学抜かしたら平凡過ぎるけどな。特徴も何にもないミステリになっちゃうだろそれ」

 

「まあ、そうなんだけど。今のままでも十分平凡だよ。一か月経ったら読んだことすら忘れそうだ」

 

「さすがにそれは………うーん、まあそうか」