「アリス・ザ・ワンダーキラー」 早坂吝 光文社 ★★★★ | 水底の本棚

水底の本棚

しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

父親のような名探偵になりたいと願うアリス。

しかし母親にはいつも「あなたにはその才能がない」と斬り捨てられていた。

10歳の誕生日に彼女のもとを訪れたのは、白い肌と赤い瞳を持つ青年コーモラント・イーグレット。

彼は、アリスの父親から頼まれてきたと言い、バーチャルリアリティを体験できるウサ耳形ヘッドギア<ホワイトラビット>をプレゼントする。

さっそく仮想空間で「不思議の国のアリス」をモチーフにした推理ゲームに挑むアリス。

そこには密室からの脱出やダイイングメッセージの解明など、アリス好みの謎が待っていたのだが……。
 

 

アリス・ザ・ワンダーキラー

 

※微妙にちょっとだけねたばらしをしていますので未読の方は読まないでください。

 

 

 

アリスが最初に挑むゲームは、身体が小さくなるシロップと大きくなるクッキーを使って、密室から脱出すること。

 

密室を開く鍵は隣の部屋にあり、そこに至る通路は身体を小さくしないと通れない。

 

しかし鍵はテーブルの上に乗っているので、身体が小さいままでは取ることができない。

 

クッキーは砕けばポケットに入るから隣の部屋に持っていくことができるが、シロップはそうはいかない。

 

さて、この難問にアリスはどう挑むか?


こういうパズルは好きだけど、解くのは苦手。

 

よって、考えずに回答を読む。

 

そしたらビックリ。

 

あー、そうきたね。まさかそんな裏ワザ的な方法で突破するとはなあ。

 

どちらかと言えば頭脳よりも体力勝負の力技だよね。

 

 

次はコショウが盛大に巻き散らかされている家に住む侯爵夫人の赤ちゃんが攫われるという事件が発生。

 

実は婦人の赤ちゃんは亡くなっていて、ブタの赤ちゃんを自分の息子だと思い込んでいるのだ。

 

そのブタの赤ちゃんが攫われたのである。

 

この誘拐事件は結構、意外な結末を迎える。

 

コショウだらけの家やカエルの召使いなど、物語を彩る要素がそのまま事件の伏線になっているところが巧み。

 


第三問目は殺人事件とダイイングメッセージ。

 

こういうの、読んでもそれほど面白いというものではないし、カタルシスもないのだけれど、作るのは意外に大変だよね。

 


第四問。

 

もしかしたら元ネタの「アリス」で最も有名かもしれない、ハンプティ・ダンプティのエピソード。

 

ハンプティが塀から落っこちて死亡をした。

 

ハンプティを落下させたトリックは?

 

……これはさすがにちょっとズルいよね。

 

ハンプティの姿を見えないようにして落ちたと誤認させ、救助兵を呼ぶ。

 

大勢の救助兵が立っていられないほどの地鳴りを伴って駆けつける。ハンプティは落ちる。

 

「落ちたから救助兵を呼んだ」のではなく「救助兵を呼んだから落ちた」のである。

 

では、犯人はどうやってハンプティの姿を消したのか?

 

正解は「フェノールフタレイン」。白身に反応して赤く染まる薬剤。

 

ここがズルいんだよね。

 

化学トリックは専門的な知識を要求されるので読者が推理できないもん。

 

まあ、もともと僕は推理しながら読書するタイプではないのだけれども。

 


そして、最後の事件は「ハートの女王殺し」。

 

アリスはトランプ兵たちのアリバイ崩しに挑戦する。

 

全編通じて言えることだが、登場人物たちが人間でなく「不思議の国の住人」であるということがとてもうまく物語(というかトリック)に活かされている。

 

ペンキでマークを描き足すことでハートの9に化けることができるのは、1、4、5だけ、とか。

そういう部分が面白い。

 

せっかく奇妙な設定にしているのにその設定の意味が何も無いじゃん!というようなミステリがよくあるけど、

 

本作は設定をフルに活かした良作だと思う。


最後のオチは……僕としては要らなかったかなー。