「贖い」 五十嵐貴久 双葉社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

月1日東京・杉並。小学校の校門に男児の切断された頭部が置かれていた。
2日埼玉・和光。林で、中学生の少女の刺殺死体が発見された。
3日愛知・名古屋。ス-パーで幼児が行方不明になる。
これらの事件を追う捜査員の姿を丹念に描き、事件の背景、
犯人の動機を重層的に炙り出す五十嵐ミステリーの新たな金字塔。
ベストセラー「誘拐」から7年。

星野警部が再び難事件に挑む!


贖い



※ねたばらしをしています。未読の方はご注意を。





まずは、二十年もの間、復讐の気持ちを持ち続けていたということに驚かされる。



その間、自分を律し、誰にも迷惑をかけないよう、すべての快楽を絶ち、


ただただ復讐を果たすためだけに生きる人生。



自分の息子を自殺に追い込んだ三人の少年に復讐をするのではなく、


三人の少年がいつか成人して子供ができたら、その子供たちを殺し、自分と同じ思いをさせる。


大切なものを奪われるという苦しみを彼らに与える。


そのためだけに生きていく人生。



「もし彼らが結婚しなかったら」「結婚しても子供ができなかったら」


そのあたりはツッコミどころではあるかもしれないが、それも最後まで読めば理解できる。


もしそうであったなら、彼は復讐を行わなかっただろう。


それならそれでいい。そう思っていたはずだ。


おそらく彼が一番責めたいのは自分自身なのだ。復讐を果たせようが果たせまいが、


彼はもはや自分の人生に一片の生きる意味さえも見出してはいなかっただろう。


だから、私利私欲をすべて捨て、ただただ生きているだけの存在。


(それゆえ、周囲からは評価されていたというのは皮肉なものだと思うが)



この犯罪の面白いところは、犯行を行う場所が東京、埼玉、名古屋とバラバラになっているところだ。


これは被害者がたまたまそこに住んでいたということで、別段、犯人が狙ったわけではないのだが、


結果として、日本の警察の横の連携の脆さをついた巧い犯行になっている。



この三つの点がどこで交わるのか。


どういう風につながっていくのか、ワクワクしながら読み進めた。



警視庁やそれぞれの県警の総力をあげた組織捜査では何の糸口も掴めなかったものが、


たった五人の刑事の熱意が、犯人の尻尾を捕まえることに成功したというのが面白いと思う。