美貌と壮絶な作品世界で一世を風靡した作家、咲良怜花。
だが彼女は突如として筆を折った。
なぜ彼女は執筆をやめたのか。
彼女が隠し続けてきた秘密とは何か。
沈黙を破り、彼女は語り始める……。
目立たない娘だった彼女を変貌させた、ある男との恋の顛末を。
恋愛の陶酔と地獄を活写し、読む者の呼吸を奪う大作。
読んでまず最初に思ったのは、
なんで貫井さんはこの物語を書こうと思ったのかなあ、
だった。
インタビューで貫井さんは、
「トリックをひとまず封印し、徹底的に一人の女性作家の人生を描写して、大河小説を書いてみようと思ったんです」
と答えている。
確かにこれは大河小説だ。
後藤和子という一人の不美人で目立たない女性が、
咲良怜花という、美貌の才気溢れる小説家になり生きていく物語。
物語には「これでもか」というほどの情感が溢れかえっている。
ぐちぐちと悩み、その悩みをこねくり回し、絶望し、時には歓喜し、
初めて恋をした木之内という男をずっと追い続けながら、
その一方で小説を紡ぐという行為に真剣に向き合う。
懸命に生きる女性の心の内の動きが、密度高く描き込まれているから、
読んでいるこちらも息が抜けず、非常に苦しい。
面白いとか面白くないとか以前に、非常に疲れる作品だと思った。
ストーリー自体はよくある話で、
最初に恋をした男性に、いつまでたっても縛られている馬鹿な女の恋愛ストーリーでしかない。
(木之内という男がたいして魅力的に思えないのでなおさら)
たいした事件が起こるわけでもない。
徹底的にその女性にスポットを当て、その他のことは一切書かない。
彼女の心情を延々と書き綴ることで、ひとつの作品にしている。
この小説は全篇、後藤和子そのものと言っていい。
これを退屈な物語と見るかどうかは人によるだろう。
僕は貫井徳郎さんにこういう作品を求めていないのでいささか拍子抜けしたが、
一人の人間をそのまま小説に昇華させたという意味で、
貫井さんの作品の中でもかなり稀有な存在として記憶には残るような気がする。