池袋の繁華街。
雑居ビルの空き室で、全身二十カ所近くを骨折した暴力団組長の死体が見つかった。
さらに半グレ集団のOBと不良中国人が同じ手口で殺害される。
池袋署の形事・姫川玲子は、裏社会を恐怖で支配する怪物の存在に気づく。
圧倒的な戦闘力で夜の街を震撼させる連続殺人鬼の正体とその目的とは?
超弩級のスリルと興奮!
大ヒットシリーズ第六弾。
暴力的なシーンが多い小説はあまり好きではない。
ミステリはあくまで知的なゲームであって、フィクションだと思うから楽しめる。
密室殺人だの、アリバイトリックだの、そんなものが現実にあるわけがない。
(まるで無いとは言わないけれど)
まして「嵐の孤島」シチュエーションなんて、現実にはそうそう起こり得ない。
あくまで、フィクションの世界だから「殺人」なんていう物騒なものを楽しむことができるのだ。
だから、本シリーズのように、暴力団の抗争だとか半グレだとか、リアルを追求したような、
それでいて暴力シーン満載の物語は基本的には楽しめない。
……のだが。
なぜか「ストロベリーナイト」シリーズはわりと読めてしまうのだ。不思議。
本作では「ブルーマーダー」と呼ばれる殺人鬼が、池袋の街を暗躍する。
ヤクザ、半グレ、中国マフィア、誰彼かまわず池袋の裏社会の住人たちを抹殺していく。
それも、“打撃”ひとつで、だ。
ポケットに入るくらいに小型で、片手で振り回せるくらい軽量で、
それにもかかわらず、人間がカタチを保つことができないくらいに、骨を粉々に砕ける武器。
それが一体どんなものなのかは、本作の終盤までわからない“謎”のひとつである。
そしてもうひとつの“謎”は「ブルーマーダー」の正体だ。
いや、正体はおそらく元警察官で、かつヤクザの組に潜入捜査をしていた元“S”の木野であることは、
中盤くらいでほぼ明らかになる。
だが、正体がわかったところで、その目的がわからなければ、
何もわかったことにはならない。物語の終盤まで彼が何のために悪党どもをぶちのめしているかはわからないまま進んでいく。
このふたつの謎に挑むのは、我らが姫川玲子……というよりは、どちらかと言えば、
かつて玲子とコンビを組んだこともある下田、それから玲子の天敵ガンテツである。
本作ではガンテツがやけに格好良いのが気にかかる。ヒーローよりも悪徳刑事のほうが似合っているぞ、ガンテツ。
じゃあ、玲子は出番ないじゃんと思いきや、最後の最後で超格好良い見せ場がある。
菊田との再会。そして告白。
いつもながらの玲子の無茶には本当にあきれるけれど、
でも、それでこそ姫川玲子だという気がする。
玲子はいつも身体と心すべてを投げ出し、むき出しのまま戦っている。
たくさんの人に愛され、心配され、気にかけられているというのに(ガンテツのアレも僕は愛情表現だと思っている)、
それでも玲子はいつも孤独だ。
たった一人で、いつだって戦場にいる。決してそんなに強くはないのに。
だが、この事件はそういう意味で玲子にとってのターニングポイントになったのではないだろうか。
弱い部分をさらけ出し、自分の中のトラウマと折り合いをつけていく、そんな事件になったのではないだろうか。
玲子の抱えるトラウマはそれほど軽くはないし、簡単に忘れることなどできないかもしれないけれど、
でも、玲子がまた新しい一歩を踏み出すことができたことを僕は嬉しく思う。
菊田も、それから大塚も、たぶんそれを喜んでいる。