「葉桜の季節に君を想うということ」 歌野晶午 文藝春秋 ★★★☆ | 水底の本棚

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ひょんなことから霊感商法事件に巻き込まれた「何でもやってやろう屋」探偵・成瀬将虎。

恋愛あり、活劇ありの物語の行方は?


葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)


※ねたばらしありの感想です。未読の方はご注意を。





ストーリーに取り立てて大きな謎はない。


あるとすれば、


主人公・成瀬がヤクザの見習い(内偵調査)をやっているときに厄介になっていた先輩・世羅が殺害される事件。


腹を滅多刺しにされ、内臓がぶちまけられるという最悪の殺され方。


しかし死因はクスリによる中毒死。


腹にコンドームに詰めたクスリを隠していたところ、それが胃の中で破れ中毒を起こす。


腹を引き裂いたのは共犯者。


当然、胃の中のクスリを取り出すためだ。


このトリックはつまらなくはないが、取り立てて誉めるほどのものではないし、第一これはサブストーリー。


成瀬に対して活発なアクションヒーローのような印象を与え、


読者に対して錯誤を与える役割を果たしているような気がする。




錯誤?


何の?


それは、成瀬の、そして周囲の人々の年齢。




主人公の成瀬、


その舎弟のキヨシ、


フィットネスクラブの知り合いで大富豪の愛子、


愛子の夫(愛子の祖父と錯誤される。愛子は「おじいちゃん」と呼ぶから)である久高、


成瀬の妹の綾乃。




全員が若者であるように描かれ、


実は高齢者であったという小説全体に仕掛けられた叙述トリックには愕然とする。


ああ、本当に騙された!



おかげで、蓬莱倶楽部の手先となっている節子と、


成瀬が恋した女性・さくらが同一人物だという仕掛けも見抜けない。


だって年齢が違いすぎるじゃないか。


そう考えてしまう。



恋愛に年齢は関係ない、まあ確かにそうかもしれない。


けどね…違和感あるよな、やっぱり。


成瀬、節子の恋が成就しても、どうも美しく終わった気がしないのは僕の偏見なんだろうね、やっぱり。