「家守」 歌野晶午 光文社 ★★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

人の妄執が巣くうとき「家」は豹変する!
何の変哲もない家から主婦の死体が見つかった。

死因は窒息死。

事故の可能性が高まるなか、彼女に秘められたある事件が浮かび…。

表題作「家守」の他、家に対する人の妄執をモチーフに描かれる短編集。


家守 (光文社文庫)


全体的にホラー色に彩られていて、


不可解な謎が中心のサスペンス小説的な作品が多い。


しかし、結末は誰もが肯くことのできる純然たる本格推理。


しっかりと美しい着地をしてくれる。



※ねたばらしをしていますので未読の方はご注意を。






「人形師の家で」は、生ある人形を作ることにとらわれた人形師と、


その家に遊びに行く三人の子供たちの話。


人形師は生ある人形を創り出した夢を見るが、


実はそれは夢などではなく…というオチと、


三人の子供のうち行方不明になった一人が、


実は二人の子供の過失によって死亡していた、という驚愕の結末。




「家守」では、さらわれた妹を殺害している妻がそれを隠すために家に固執しているというオチはなんとなく途中で読めてしまったが、


夫が妻を殺害するのは純然たる密室物の本格推理。


ハムスターの死骸は絶対何かの伏線だろうなあ、と思ったのですけれど。


でも、プロローグの妻の殺害シーンはちょっとズルくないですか?



「埴生の宿」はちょっと驚きの結末。


アルバイトには裏があるのかなあ、という思いで読み進んでいただけに、


何となく拍子抜けをした感はあります。




「鄙」は村ぐるみでひとつの犯罪を隠蔽する。


動機は「必要悪」。


伏線もしっかり張ってあり、なかなか読みごたえがありました。


死体を抱えて背負っている人間と誤認させるのは現実的にはどうかとは思いますが、


面白いトリックではありますね。




「転居先不明」は「正月十一日、鏡殺し」のような雰囲気がありますね。


同じ場面を視点を変えてなぞり、何が起こったかを表現するオチや、故意でない殺人、という共通点があります。


「正月~」ほどの衝撃はありませんけど。