「鴨川ホルモー」 万城目学 角川書店 ★★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

このごろ都にはやるもの、勧誘、貧乏、一目ぼれ。
葵祭の帰り道、ふと渡されたビラ一枚。腹を空かせた新入生、文句に誘われノコノコと、出向いた先で見たものは、世にも綺麗な人(鼻)でした。
恋に、戦に、ちょんまげに、若者たちは闊歩して、魑魅魍魎は跋扈する。京都の街に巻き起こる、疾風怒濤の狂乱絵巻。
「鴨川ホルモー」、ここにあり!


鴨川ホルモー (角川文庫)


いきなり断言してしまいますよ。


書店で平積みされたこの本を見た人は(別に棚差しされた本を見てもいいけど)、


ほぼ例外なく「『鴨川ホルモー』って何?」と思うでしょう。


僕はそう思いましたよ、少なくとも。




「鴨川」は分かります。


京都を流れる、カップルが置き石のごとく点々と連なることで有名な、あの川のことでしょう。


でも「ホルモー」がわかりません。


ホルモンにあらず、ホルモーなのです。初めて聞いた単語です。



せっかく理解していた「鴨川」という単語も、


「ホルモー」という意味不明の言葉とくっつくことで訳がわからなくなってしまいます。



で、まあ、そのへんの謎を解くべくページを開いたわけですが。


しばらく読み進めても「ホルモー」の正体はよくわかりません。


食費にも事欠く貧乏男子学生が、


タダ酒とタダ飯目当てにサークルの新勧コンパを梯子し、


そこで出会った女の子に一目ぼれをするという、


どこにでも転がっている普通の青春物語が展開されているだけだからです。

(人目ぼれの理由が「彼女の鼻が美しいから」というあたりはちょっとフツーではないですが)


作者は嫌らしいほどに読者を焦らしながら、「ホルモーとはなんぞや」を明かしていくのです。



わけわかんねえなあ…と思いながらさらに読み進めてみると、


話は次第に怪しげな方向に進んでいきます。


「ホルモー」の正体は十人対十人で行う団体戦のこと。


とは言っても戦うのは人間ではなくオニたちで、


人間はそのオニを操るためにオニ語を習得し、指令を出さなくてはいけません。


オニが全滅させられたり、チームのリーダーが降参を宣言したらそのチームの負け。


オニを全滅させられたプレイヤーは「ホルモオオオオオッ」という、


世にもアホらしい大絶叫をする羽目になります。



…って、なんだこりゃ。


どんだけ奇想天外な話なんだよと訝しげに思いながら読み進めていくと…


なぜか、次第に物語世界に惹き込まれていくから、あら不思議。


ホルモー自体は奇想天外でも、


ホルモーのために集った同志たちの間で起こるさまざまな事件はいたって普通の青春物語。


恋の鞘当あり、サークル内の軋轢あり、友情ドラマあり、涙あり、笑いあり。


そのフツーの大学生たちのキャンパスライフと、


SF的ファンタジー的アクションシーンが見事に融合しているところが面白いのです。


物語終盤では、もはや僕にとっては「ホルモー」という人外の活動も単なるサークル活動のように違和感なく受け入れられるようになってしまいました。


どっからこういう発想が生まれてくるんだかなあ…とつくづく感心させられる、見事なエンターテイメント作品です。