教室で目覚めると、8年間の記憶が失われ高校時代に逆戻り。
どうやら母校で教師をしているらしい。
おまけに親友の実綺が高二の文化祭前に亡くなっているなんて!
二人で「眼鏡屋は消えた」を上演するべく奮闘していたのに。
あたしは最も苦手としていた、イケメンの元同級生・戸川涼介とともに真相を探る決意をしたが……。
ハイテンションな筆致で贈る、第21回鮎川哲也賞受賞作。
学園ミステリという意味では非常によく書けていると思う。
能天気でハイテンションなヒロイン。
(記憶喪失を「ドラマティック!」だと楽しめる人物はそうはいないぞ)
クールで頭脳明晰なイケメン探偵。
正直なところを言わせてもらえば、あまりにもパターン化されていてそこに面白みはないのだけれど、
だからと言って奇想天外なキャラクターを据えて物語が混乱するよりもよっぽど好感が持てる。
語り口が軽妙で、ほどよいテンポで物語が進行していくので読んでいてストレスはない。
新人のデビュー作品という点を考慮すれば完成度はかなり高い。
八年前に起こった親友の転落死事件。
その二年前に起こった「眼鏡屋」の劇の元ネタとなった少年の転落死事件。
そして、ヒロインが記憶喪失になる原因となった殴打事件。
このみっつの事件を同時並行的に調査していくのだが、それが混乱なくしっかりと書かれている。
構成が巧みであり、物語全体をしっかり俯瞰で捉えながら、過不足なく説明をしている。
計算がしっかりしている物語であると感じた。
ただし!
もちろん甘い点もたくさんある。
これたぶん誰もが指摘するところだと思うのだけれど、推理がすべて推論なんだよな。
物的証拠は何も無いし、すべてが「可能性の話」なので余詰めも多そうだ。
八年前、十年前の事件について調査しているわけだから、そりゃもちろんほとんどを想像で補わなければいけないっていうは当然だし、
これで物証がバンバンでてきたらむしろなんでだよってハナシになる。
(それにしても八年前のことを訊いて皆がいろいろ証言できるのは不自然だ。覚えてないだろフツー)
それから。
ラストの解決編がくどい。って言うか長い。
なんだかずっと同じことを繰り返しているような気がして、スマートではない。
元々、事件そのものが小ネタでトリックなんて、あってないようなものだから、
そこに驚きはないんだけど、それにしても。
作者があとがきで「論理的な謎解きの過程のおもしろさ」を追求したと書いていたので、
そこらへんを期待していたのだけれど、
残念ながら、推論をだらだらと垂れ流すだけの解決編になってしまっていた。
まとまっているけれど、目新しさは特にない。
新人のデビュー作ってこういうのが求められているんじゃないと思うんだけどなー。