鈴木陽子というひとりの女の壮絶な物語。
涙、感動、驚き、どんな言葉も足りない。
貧困、ジェンダー、無縁社会、ブラック企業…、見えざる棄民を抉る社会派小説として、保険金殺人のからくり、孤独死の謎…、驚愕のトリックが圧巻の本格ミステリとして、平凡なひとりの女が、社会の暗部に足を踏み入れ生き抜く、凄まじい人生ドラマとして、すべての読者を満足させる、究極のエンターテインメント!
「週刊文春の2014年ミステリーベスト10の第6位にランクインした作品だね」
「ああ。読んでみようと思ったきっかけはやっぱりそれだな」
「デビュー作の『ロストケア』はかなり面白かったよね」
「それそれ。だから本作も期待感はあったな」
「構成がいいんだよね。物語の先へ先へ読ませる力があると思うよ」
「まず冒頭から読ませるよな。
いきなり孤独死している女性の死体が発見されるところからはじまる」
「それもペットの猫たちに死体を喰いちぎられて、その猫たちも同じ部屋の中で餓死して。
壮絶だよねー。こういうのが好きじゃない人たちはともかく、いきなり物語に惹きつけられるよ」
「さて、どうなるんだろうな、ってところだな」
「それから、場面は変わってある邸宅で男性の全裸刺殺死体が発見される。
それがどうつながっていくのか。気になるよねえ」
「孤独死のような状態で発見された女性の死体。
邸宅で発見された全裸男性の刺殺死体。
そして……孤独死のような状態で発見された死体と思われる、鈴木陽子という女性。
この三つの物語が同時並行的に語られるんだよな。
それは、少しずつ交わり、重なり、互いを補完し合い、鈴木陽子が送ってきた、壮絶だけど悲しく虚しい人生を物語るんだ」
「繰り返しになるけど、その構成がとてもいいよね。物語にぐいぐい引き込まれていく」
「作者本人がインタビューでこう答えているらしい。
曰く、『私は今まで誰も思い付かなかった密室殺人のトリックとかを書くタイプのミステリー作家ではないので、話の筋運びと構成で勝負していくしかないと思ってます』
だってさ」
「なるほどねえ」
「女性の貧困、無縁社会、ブラック企業、孤独死、DV、ネトウヨ……社会の暗部を描き出した作品だよな。
ひとりの平凡な女性が、平凡に生きていきたいと願い、そうして真面目に生きているのに、平凡に生きることすらできない。
ちょっとした間違いでしかないのに、どんどん転がり落ちていく。
そのリアルが、いっそ空恐ろしい。
本当にちょっと前まで、安月給だけど田舎で真面目に働く地味なOLだったんだぜ。
それがなんで、枕営業で保険の契約とったりするようなブラック企業で働いてんだよ。
それがなんで数年後に歌舞伎町でデリヘルやってんだよ。
保険金詐欺なんか働く羽目になってんだよ。
本当に恐ろしいわ」
「典型的な社会派ミステリなんだけど、でもそれだけじゃないよね。本格ミステリ的面白さもある」
「そうなんだよな。
オビに『ラスト4行目に驚愕。』ってある。
その意味を知ったとき、確かに驚いたな」
「鈴木陽子の章が二人称で語られる意味も終盤でわかるけれど、それよりもラスト4行目のほうが驚きだった。
ねたばらしになるからあまり言えないけど……あまりにも大胆に登場していたからわからなかったよね」
「読み返せば、けっこう大胆に伏線も張ってあるんだけどな」
「そうなんだよねえ」
「以前から言っているけど、正直なところオビにこういうの書くのは好きじゃないんだけどな」
「ラスト4行とか、ラスト1ページとか、そういうの?」
「そう。そこに驚きとかどんでん返しが待っていますよ、と教えてしまうのはマナー違反だと思う。
少なくとも驚きが減るのは間違いない。
版元編集の仕事をバカにするわけじゃないけれど、能がないし繊細さがないなあとは思うよ」
「辛口だねえ。
でもさ、この作品のラスト4行目の場合、けっこう微妙な書きかたをしているじゃない?
もしかしたら、このオビがなければここに注目しないで読み終えちゃった人もいるかもよ?」
「……うーん。その可能性は……ないとは言えないか」
「どっちにしてもさ、この物語のラストの壮絶さ、結末の衝撃には震えるよ」
「これだけ悲惨な物語なのに、エンタメ性が高いというのもこの作者の特徴だな。
同じテイストでずっと書き続けていればいつかは飽きられるだろうけど……この作者はそういう風にはならないような気がする。
ひとつひとつの作品にしっかりと個性をつけてくれるような。
そんな気がするよ」
「そういう期待感はあるよね」
「あるよな」