「探偵の探偵」 松岡圭祐 講談社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

調査会社スマ・リサーチが併設する探偵学校スマPIスクールに、笑わぬ美少女・紗崎玲奈が入校する。

探偵のすべてを知りたい、しかし探偵にはなりたくない、という玲奈、なぜ彼女は探偵学校に入校したのか?

スマ・リサーチの社長・須磨康臣は、彼女の驚くべき過去をつきとめる。

須磨は玲奈の希望を鑑み「対探偵課」を設けた。

紗崎玲奈はひとり、悪徳探偵を追う“対探偵課探偵”となった。


探偵の探偵 (講談社文庫)



ミステリでもいい、ハードボイルドでもいい、サスペンスでもいい。


いずれにせよ、小説の中に登場する探偵は、たいていの場合、正義の味方として描かれている。


中には一風変わった探偵もいて、素直に正義の味方と呼びたくない場合もあるけれど、


それでも明確に「悪」の側に回っているケースというのはあまりない。


(ないわけじゃないけれど)



しかし。


現実はそうはいかない。



現実の探偵は殺人事件を解決したりはしない。


彼らの仕事は主に人探しや身上調査。


いや、もちろんそれだって悪いことではない。


人様の役に立つ仕事であることも確かだろう。


ただし、理由があって見つかりたくない人を無理に探そうとしなければ、だ。



この小説の中で、玲奈が探し求める探偵は、


かつてストーカー被害に遭い、逃げるために引っ越しをした玲奈の妹の所在を、そのストーカーに教えた人物だ。


その探偵は「依頼された仕事を行うのは当然」と言うだろう。


だが、結果として玲奈の妹はストーカーに殺害された。


その探偵はストーカーがどれだけ危険な人物かわかっていながら調査に応じた。



世界のルールを守らず、金のためなら何でもするような探偵を狩る。


そして、妹を殺した探偵を見つけ出す。


だから、「探偵の探偵」なのだ。



「万能鑑定士Q」シリーズなどでも顕著な岡圭祐お得意の雑学トリックなどは時々入るが、


基本的にはミステリ的な要素はほとんど無いと言っていい。




玲奈に理屈は要らない。


玲奈は汚い手を使うことも、暴力をふるうことも、犯罪に手を染めることも一切躊躇しない。

目指す相手を叩き潰すためには手段を選ばない。



そういう、理屈が通用しない物語は基本的には好きではないし、


玲奈があまりにも不死身過ぎるのもどうかと思うし、


有無を言わせない暴力の連続にも辟易とする。


いわゆるアクション映画のような爽快感は一切なく、ただ、あるのは悲愴感だけだ。




だが。



それでも、玲奈の目的は果たさせてやりたいと、そう思う。



どうか。

玲奈がいつかまた笑える日がくるように。


そのときまで、玲奈の命が尽きることがないように。


ただ、それを願うしかない。