「飲めば都」 北村薫 新潮社 ★★★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

新人文芸編集者・都(みやこ)の「酒と校正刷(ゲラ)の日々」。タガの外れた、恋の行方は?

人生の大切なことは、本とお酒に教わった──日々読み、日々飲み、本創りのために、好奇心を力に突き進む女性文芸編集者・小酒井都。

新入社員時代の仕事の失敗、先輩編集者たちとの微妙なおつきあい、小説と作家への深い愛情……。本を創って酒を飲む、タガを外して人と会う、そんな都の恋の行く先は?

本好き、酒好き女子必読、酔っぱらい体験もリアルな、ワーキングガール小説。

飲めば都 (新潮文庫)



北村先生、どうしてこんなに女性目線?



思えば。


北村先生がまだ覆面作家で「私と円紫師匠」シリーズを書いていらっしゃったころ、


北村先生は女性だという推理の方が多かったように思う。


(僕も北村先生は女性ではないかと思っていた)


でも、本作を読むと、そういう推理もさもありなんという感じですよねえ。


(ちょいちょいオヤジギャグが入るあたりは……目をつぶるとして)


本当に、女性の心理描写が秀逸です。



とは言っても、僕は女性ではないので、


女性が読んだときにどう思うかはわからないのですが。



少なくとも男性読者を納得させるだけの説得力はあるわけです。




飲みニケーションという言葉も時代的にもはや死語に近くなり、


特に書店員なんてやっていると、


ホントかよと思うくらい下戸が多いし、


そもそも積極的に人に関わりあいたくない人が多いから(あ、ウチの書店だけ?)


仕事帰りの一杯飲みながら、仕事の愚痴をこぼしたり、後輩に説教してみたり、先輩にされてみたり、


なんてことがほとんどないんですよね。


みんなウチに帰ってゲームをしたりマンガ読んだりしたい。


もしくは話の合う人とだけしゃべりたい。



書店員になる前はそういうのが当たり前にある会社にいたので、


今の状況は違和感を覚えるのだけれど、まあ仕方ないかと諦めてもいる。



だからこそ、この本を読んで、いいなあ羨ましいなあと思う。



飲んだくれて時折、失態を演じてしまう都さんは決して羨ましくはないけれど、


でも、いつだって一緒に飲める相手がいるのは「いいなあ」と思う。


上司、先輩、同僚、恋人……。


都さんはお酒を介して素敵な人間関係を築いていく。




僕もお酒は大好きだし、年がら年中飲んでいるけれど、


でもやっぱり一人で飲むのはつまらない。


一緒に飲む人がいてこそ、お酒は美味しい。



僕も都さんたちの仲間に入って、一緒にお酒を酌み交わしたい。


そんな風に思える、温かで優しい一冊です。