「人間の顔は食べづらい」 白井智之 角川書店 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

世界的に流行した新型ウイルスは食物連鎖で多様な生物に感染し、爆発的な数の死者をもたらした。

ヒトにのみ有効な抗ウイルス薬を開発した人類は、安全な食料の確保のため、人間のクローンを食用に飼育するようになる。

食用クローン人間の飼育施設で働く和志は、自宅で自らのクローンを違法に育てていた。

ある日、首なしで出荷されたはずのクローン人間の商品ケースから、生首が発見される事件が発生する。

和志は事件の容疑者とされるが、それは壮大な悪夢のはじまりに過ぎなかった―。

異形の世界で展開される精密でロジカルな推理劇。

第34回横溝正史ミステリ大賞最終選考会で物議をかもした衝撃の本格ミステリ、解禁。


人間の顔は食べづらい



※ねたばらし感想です。未読の方はお戻りください。





食人が合法化された日本、食用クローンの飼育加工工場で起こるミステリ。

(ただし自分のクローンしか食することはできない)



タイトルや帯から連想されるほどには、グロくはない。


カニバリズムは単なる小道具で、それが主眼ではない。



多少変格ではあるけれど、十分に本格ミステリとしての要件を満たしている。



冒頭の飛び降り自殺からはじまり、


この世界の社会的背景やプラナリアセンターという食品加工施設などの説明が続き、


一体この物語はどこにいくのだろう、何が謎になるのだろうと思いながら読んでいると、


唐突に、


「誰がクローンの死体が入っている箱に生首を入れたか」


という謎が現れる。


この展開はなかなか意表をつかれる。



ここから、探偵役がコロコロ入れ替わって、独自の推理をたたかわせるのも面白かったし、


容疑者もその都度、入れ替わっていく。


(途中で「コイツが探偵役かな」と思われた金髪の青年はあっさり死んでしまう)



正直、解決まで読めば、


クローンが登場している時点で入れ替わりのトリックが使われているのは当然だよね、


と思うし、


まったく姿かたちが同じ人物が二人以上存在し得るのだからアリバイなんて無いも同然だよね、


ということにも気が付かされるのだけれど、


それらをまったく思いつかせることなく、ストーリーを進めるというのは技巧だなあと思う。


まあ、僕が単にニブイというだけなのかもしれないけれども。