「六つの手掛り」 乾くるみ 双葉社 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。

見た目は「太ったチャップリン」の謎めく男、林茶父(はやし・さぶ)は神出鬼没。

変死事件にたびたび遭遇して、犯人と、犯人が隠匿しようとした事実をカラリと鮮やかに暴いてみせる。

普段はおかしみのある雰囲気でも、洞察鋭く、奥に潜む真実にたどりつく。

さあご覧あれ、類い稀なる見事なロジック。

全六話のうち三作が日本推理作家協会や本格ミステリ作家クラブ編のアンソロジーに入った傑作ミステリー短編集。遊び心もたっぷりで、凝った趣向にニヤリだ。


六つの手掛り (双葉文庫)



収録作品は、


「六つの玉」「五つのプレゼント」「四枚のカード」「三通の手紙」「二枚舌の掛軸」「一巻の終わり」。




人物を描くとか、人間ドラマとか、そういった演出は一切無し。


特異なキャラクターが登場しないわけではないけれど、


それらもすべてストーリーの中で「トリック」を成立させるための布石。


潔いまでに、トリック部分に特化した短編。


もっと言えば、ハウダニットに特化した短編。



動機なんか、あとから考えればいい。


って言うか、林氏が登場人物たちと出会って、ほどなくして誰かが殺されて、捜査もへったくれもなく、ロジックのみでスピード解決されてしまうので、


動機なんて推理しているヒマがない。(推理の材料もないしね)



トリックメイカーの乾くるみさんらしい短編集です。


ロジカルという意味では、


最終話、書き下ろしの「一巻の終わり」がお勧めです。


思わず、ニヤリとさせられるラスト。


キレイに終わりましたね。