おれはこの頭だけを頼りに今まで生きてきた。
これからもそうさ。生き残るためには手段を選ばない。
殺人事件の容疑者として逮捕された少年には、戸籍がなかった。
十八歳くらいだと推定され、「町田博史」と名付けられた少年は、少年院入所時の知能検査でIQ161以上を記録する。法務教官の内藤は、町田が何を考えているか読めず、彼が入所したことによって院内に起こった不協和音に頭を悩ませていた。
やがて、何人かの少年を巻きこんだ脱走事件の発生によって、事態は意外な展開を見せる……。
おまえは何を望んでいるんだ?
どうすればおまえの苦しみは少しでも癒やされる?
長っげ!
ひさしぶりにこんなに長いの読んだわ。
でも、そのわりに長い小説読んだ気があまりしないっていうのはどういうことだ?
下巻にいたっては、行き帰りの電車でほぼ読み終わった。
抜群の記憶能力と分析力を持った天才。
だが彼には、人間らしい心もなければ、修学経験も、戸籍すらもなかった。
そんな彼を中心軸として、同年代の少年たちがさまざまな思惑を展開させる前半は、けっこうワクワクして読んだ。
ステロタイプなキャラクターが多くて、ちょっとなあとも思わなくもなかったのだけれど、
登場人物全員がそれぞれにバラバラの想いや行動理念で動いているのに、
物語がとっちらからずに進んでいくのはさすが薬丸岳だと思った。
でも。
ワクワクできたのは上巻まで。
下巻に入ってからは、冗長な印象が強く、ついついページをめくる手も早くなってしまった。
(先が気になるから早くなるのではなくて、どうでもよくて読み飛ばしがちになった)
町田の過去だとか、ムロイのことだとか、
内藤や楓が調べまわったりするのだけれど、
読者にとっては周知の事柄も多く、ものすごく退屈に感じた。
それから、稔を探すくだりは、本当にもうどうでもよくて。
どうせ、ラストで町田と再会してハッピーエンドになるか、
バッドエンドの方ならすでにムロイに利用されて死んでいるとか、
どっちにしても中盤で見つかったりしないよなと思っていたので、捜索のくだりは本当にどうでもよかった。
それから。
町田は天才だけど、人の心が理解できないロボットのような青年として描かれている。
そのキャラ設定に失敗しているよなあと思った。
町田は、楓のウチの工場のことも気にかけているし、為井の起業には結局協力しているし、
そもそも稔のことを大切に思っていたし、少年院で一緒になっただけの連中の脱走計画にも力を貸すし。
腕を(自業自得で)失った仲間のために義手を必死に作ったりもするし。
ちょっとばかりクールなだけで、人の心がわからないヤツなんかじゃないよなあ。
っていうか、これって、ただのツンデレだろ。
そのへんのキャラのブレも含めて、前半の展開とは雲泥の差でつまらなかった下巻。
前半が面白かっただけに、ただ長いだけの小説になってしまったのはとても残念だ。