その女を、入れてはいけない。
入れれば最後、家はたちまち食い尽くされる。
その先に待つのは凄絶な……家族同士の「共食い」だ。
平凡な家庭の主婦・留美子は、ある日玄関先で、事故で亡くした息子と同じ名前の少年と出会い、家に入れてしまう。
後日、少年を追って現れたのは、白いワンピースに白塗りの厚化粧を施した異様な女。
少年の母だという女は、山口葉月と名乗り、やがて家に「寄生」を始める。
浸食され壊れ始める家族の姿に、高校生の次女・美海はおののきつつも、葉月への抵抗を始め…。
なんで、こんなことになるんだろうか……?
こんなことを受け入れるって、ありえる?
そもそも、見知らぬ子供を保護するというスタート地点からわけわかんないんだけど、
そこから先もいくらでも引き返せるタイミングがあったよね。
なのに、誰も声をあげようとはしない。
美海だけが唯一、抵抗を見せるが、それも家族の妨害に遭ってしまう。
現実でも「マインドコントロール」による事件がいくつも起こっているから、
あり得ないよって言いきれないのだけれどね。
ただ。
こういう、人間の恐怖を描くストーリーを描くには……ちょっと筆力が足りないのでは。
貴志祐介さんがオビで、
「これに比べれば、サイコホラーは爽やかだろう」
と書いているけれど、
残念ながらそこまでの恐怖はこの小説からは感じられない。
誉め過ぎだ。
どう考えても、貴志祐介さんの「黒い家」なんかのほうがよっぽど人間の怖さが出ているし、
こういう、どこまでも堕ちていく、じわじわくる恐怖を描かせたら宮部みゆきさんの右に出るものはいない。
ミヤベさんのように、丹念に、丁寧に、物語を、キャラクターを、細部まで描き込んでいって、
こういうストーリーははじめて成立するのではないか。
描写もストーリー展開もキャラクターの描き込みも、あっさりし過ぎているから、
どうしようもない、逃れようもない罠にかかったという気分にならないんだよね。
マインドコントロールって怖いな、ってならない。
終始、「どこのタイミングでも逃げられるのになあ」と思いながら読んでいた。
ラストは意外性があるというよりは、唐突すぎて受け入れられない。
あっけなさ過ぎて拍子抜けした。
けっこうな厚さの本なのに、なんだか、実際の事件(たとえば北九州の監禁事件)のダイジェストをニュースで観ているだけのような気持ちになった。
小説が現実よりあっさりしているってどういうことだ。