「明日の子供たち」 有川浩 幻冬舎 ★★★ | 水底の本棚

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想いがつらなり響く時、昨日と違う明日が待っている!

諦める前に、踏み出せ。
思い込みの壁を打ち砕け!
児童養護施設に転職した元営業マンの三田村慎平はやる気は人一倍ある新任職員。
愛想はないが涙もろい三年目の和泉和恵や、理論派の熱血ベテラン猪俣吉行、“問題のない子供"谷村奏子、大人より大人びている17歳の平田久志に囲まれて繰り広げられるドラマティック長篇。


明日の子供たち



施設への正しい理解を求める高校生が、有川浩さんに手紙を送り、


その熱意に有川浩さんが応えて書き上げられた作品だとのことです。


そのエピソードは作中でも活かされています。



コンセプトは正しく、伝わっている。


エンタテインメント作品にその熱いメッセージを乗せて読者に届ける有川節は健在。



ただ。


キャラクターが定型化していて新鮮味がないのと、

(それはそれでちょっと安心もできるとも言えるのだけれど)


物語そのものよりもメッセージが全面に出てきすぎているので、


何だか、その押しつけがましさに辟易とする。



施設の子をかわいそうと言ってしまった三田村クンは、


しばらくの間、カナちゃんに嫌われるけれど、


かわいそうだと思う三田村クンのその気持ちは「憐み」とか「同情」とは違うと思う。



それを、しつこく、しつこく、物語の中で、


「施設の子を誤解しないでほしい」


と叫び続けられると、ついこちらも「誤解してねーよ」とか、


「誤解するも何もそもそも興味がねーよ」とか、言ってしまいそうになる。



何言ってんだかね、僕は。



有川浩さんファンと世間と施設を敵に回しそうだな。



でもさ。


僕は小説を小説として、物語を物語として楽しみたい。


作中で語られているように、


たった一度の人生しか生きられないはずなのに読書をすることでたくさんの人生を知ることができる、


それがまさに本のすばらしさだと僕も思う。



けれど、それは、結果としてそうなるってことでいい。



経験を、知識を、思想を、求めて読書をするのじゃない。


ただただ、面白い物語を読みたいから。



それなのに、この作品は、


「もっと考えろ」


「もっと知れ」


「もっと興味をもて」


と呼びかけてくる。




社会的に意義があり意味もあるメッセージを上手に物語に乗せて読者に届けているけれど、


物語はメッセージを届けるための道具なのかな?



有川浩さんはいつから小説家ではなく、コラムニストになったのかな?