「瘤」 西川三郎 幻冬舎 ★☆ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
日々読んだ本の紹介や感想を徒然なるままに書いていきます。

書店のオシゴトの様子なんかも時々は。
本好きの方、ぜひのぞいてみてください。


瘤


臨港パークの公衆トイレで発見されたマスコミ界の重鎮、藤原公平の絞殺死体。

その胸ポケットには謎の数字が記されたメモが発見された。

一週間後、今度は横浜港で日本医師会長、織田五郎の水死体があがる。
捜査線上に浮上した水口靖男と織田祐一郎、20年前の福岡での事件。

捜査が進むにつれ、彼らの隠された因縁が明らかになる。

次のターゲットは?

この連続殺人の真の目的は?

そして最後に明かされる真実とは?



※ねたばらし満載な上に、悪口雑言のオンパレードです。ファンの方はお読みにならないように。







えーと。


何をどうつっこんでいいのやら。




第一に言いたいことは、文章がど素人だということだ。


経歴を調べたらちゃんとしたプロの作家さんではなく、


いわゆる理系企業家が、


文化的素養もあるんだよというところをアピールしたくて


二束のわらじを履いてみました、という話らしい。


早い話が、金持ちの道楽だ。なぜ出版した、幻冬舎。




ならば文章のいろはもわからないのは仕方がないことだが、


視点の固定のような基本は版元のほうでちゃんとチェックするべきではないのか。


漫画は作家と編集者が二人三脚で作るものだと聞いたことがあるが、小説はそうではないのか。




まあ、それはいい。


内容が面白ければ少々読みづらいことなど気にならなくなるものだ。


だが、この作品について言えば最後まで文章の下手さ加減が気になり続けた。


つまり、作品世界にちっとも夢中になれなかったということだ。



隠された真実も何もなく、動機があって一番怪しい人間がそのまま犯人という、


工夫もへったくれもない展開。


捜査過程もそのまんまだらだらと書き連ねただけで面白くも何ともない。


キャラクターに魅力があればまだマシなのだがそれもない。


結子は小説の中心人物だが、物語にとって何の意味もない。


彼女は一体何のために存在するキャラクターなのか。



殺害トリック…というか、方法にも相当疑問が残る。


中学生までの長い時間を一緒の敷地内で過ごした(しかも実は自分の息子!)男が、


織田五郎はわからないものか?


少なくとも「あれ、この男どこかで見たことが…」くらいは思うものではないか。


また、そうでなかったとしても靖男のほうで


「俺の顔を五郎は覚えているかもしれない」という危険性を考慮しなかったのか?


大体、結子の不貞を告発する目的で祐一郎のマンションに送る途中で、


のん気に「ちょっと観光でも」とか言われてほいほい付いていく意味がわからん。


ここは「観光なんてしている場合か! 早く送ってくれ!」と言うところだろう。


しかも警察がそこの推理はまったく放棄してしまっているし。


読者はそのシーンを読まされているからわかっているけれど、


警察は五郎殺害に関しては何にもわかってないだろ。


ラストの手術室でのシーンも……まあ、いいや。


そこもツッコミどころ満載だけど、もう面倒くさいからオッケー(笑)


とにかく、これだけ何のへんてつもないストーリーを何の工夫もなく本にしてしまうのだから、


その神経の太さには敬服する。スゲー。