「カンニング少女」 黒田研二 文藝春秋 ★★★ | 水底の本棚

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しがない書店員である僕が、
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都立K高校三年、天童玲美は、姉の死の真相を探る為、最難関私大・馳田学院入学を決意する。

今の学力では合格が覚束ない玲美は、クラスで成績トップの優等生・愛香と陸上インターハイ選手の杜夫、機械オタクの隼人の協力を得て、カンニングによる入試突破を目指す。


カンニング少女 (文春文庫)





梗概には「スリル満点の胸キュン青春コンゲーム小説」と銘打たれていました。



コンゲームの和訳は「信用詐欺」


暴力を排し、その頭脳とあの手この手の手管で相手を信用させ、


大金(もしくはそれに準ずるもの)を騙し取るというもの。


有名なのは何と言っても映画「Sting」


小説でも有名な作品はたくさんあるし、


最近ではドラマ化もされた漫画「ライアーゲーム」はコンゲームの応用と言うべき作品ですね。


カンニングというのは、上記の定義からすればかなり外れており、


コンゲームとは呼べないかもしれませんが、


学生にしてみればテストの結果というのは大金にも匹敵する価値があるものだと思います。


これもまた、コンゲームの亜流と言っていいのではないでしょうか。



コンゲーム好きの僕としてはかなり楽しみにしながら読み始めました。




カンニング小説と言えば、五十嵐貴久さんの「Fake」がありますが、

(ただしこの作品がカンニング小説なのは前半だけですが)


この小説で使用されている技術はそのまま現実に使えるのではないかというほど精緻なもの。


本作もまた、そのあたりを楽しむことができました。


技術的に高校生に可能かどうかはこの際、気にしないことにして、


純粋に「おおーすげー」って。



通常、ミステリで機械トリックが出てきたら興ざめします。


意味不明の記号かと思っていたらQRコードで、


そこに暗号が隠されていました、なんていうトリックだったら、


つまらないとは思わないし感心はするかもしれないけれど、感動はしませんよね。



ところが、カンニング小説ならそれがアリっていう気がします。


技術比べで相手の裏をかく。


そういう人類の叡智を集結させた(?)頭脳戦を読みたいなーって思います。


本書は半分はカンニング小説、半分はミステリと青春小説。


ミステリや青春小説の部分は、まあ無難かなあという程度の出来で、


それほど楽しめる感じもしませんでした。


「他の誰かにしゃべったらこの先、生きていけないよ」という日記の一文を


主人公たちは「生かしてはおかない」という脅迫だと解釈していましたが、


それはどう考えても強引でしょう。


普通に考えたら「僕は生きていけない」という懇願にしか読めないんですけど。



このあたり、出来が良いとは言えません。


であれば、もっとカンニング部分に特化した作品が読みたかったなーという不満は残りましたね。